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要 約
国民は、憲法が保障する基本的人権を濫用してはならず、常に公共の福祉のために利用する責任を負う(憲法12条)ので、言論の自由といえども絶対無制約ではなく、公共の福祉による制約を受ける。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人木田茂晴の上告趣意について
所論の食糧緊急措置令は、昭和21年2月17日旧憲法第8条に基いて制定された緊急勅令であって、その後帝国議会の承諾を得て法律と同一の効力を有するに至ったものである。そして、新憲法施行前に適式に制定された法規は、その内容が新憲法の条規に反しない限り、新憲法施行後においてもその効力を有することは、当裁判所の判例として示すところである(昭和22年(れ)第279号同23年6月23日大法廷判決)。そこで、「食糧管理法第3条第1項ノ規定又ハ同法第9条ノ規定ニ基ク命令ニ依ル主要食糧ノ政府ニ対スル売渡ヲ為サザルコトヲ煽動」した者を処罰する食糧緊急措置令第11条の規定の内容は、新憲法第21条の条規に反するかどうかが問題となるのである。
新憲法第21条は、基本的人権の1つとして言論の自由を保障している。そして、新憲法の保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられたものであり、また、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果として現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであることは、新憲法の規定するところである(憲法11条97条)。
されば、新憲法の保障する言論の自由は、旧憲法の下において、日本臣民が「法律ノ範囲内ニ於テ」有した言論の自由とは異なり、立法によっても妄りに制限されないものであることは言うまでもない。しかしながら、国民はまた、新憲法が国民に保障する基本的人権を濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのである(憲法12条)。それ故、新憲法の下における言論の自由といえども、国民の無制約な恣意のまゝに許されるものではなく、常に公共の福祉によって調整されなければならぬのである。所論のように、国民が政府の政策を批判し、その失政を攻撃することは、その方法が公安を害せざる限り、言論その他一切の表現の自由に属するであらう。しかしながら、現今における貧困なる食糧事情の下に国家が国民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められたる同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に対する売渡に関し、これを為さゞることを煽動するが如きは、所論のように、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止るものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものである。されば、かゝる所為は、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は新憲法第21条の条規に反するものではない。それ故、右の規定が新憲法の施行によって無効に帰したことを主張し、これを適用して被告人を有罪とした原判決を違法とする論旨は理由がない。
よって、旧刑訴法第446条に従い主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。