侮辱罪

insults 刑法各論
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1 意 義

侮辱罪とは、「具体的に事実を摘示することなく、公然と人に対して軽蔑の表示をする行為(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、p.66)を処罰する犯罪です。

刑法231条(侮辱)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

2 保護法益

侮辱罪の保護法益は外部的名誉で、外部的名誉とは人に対する社会的評価(=評判・世評・名声)をいいます。(判例・通説)

侮辱罪の保護法益を名誉感情(=自己が自己に対して持っている価値意識・感情)とする説もあります。

侮辱罪の保護法益は、外部的名誉

3 主 体

侮辱罪は、事実を摘示せずに、人に対する社会的評価を低下させる行為を処罰する犯罪で、人に対する社会的評価を保護するためには、これを低下させる行為を行う者に制限を設ける理由は特にありません

したがって、事実を摘示せずに、人に対する社会的評価を低下させる行為を行った場合には、誰にでも侮辱罪が成立し得ます。

ただし、人に対する社会的評価を低下させる行為を行う者は、自然人である個人であることが必要で、法人の代表者が、法人の名義を用いて人に対する社会的評価を低下させる行為を行った場合は、法人ではなく、現実に行為した代表者が処罰されることになります(大判昭5.6.25参照)。これは、法人は観念的な存在で、実際に法人として活動しているのは、法人自体ではなく、自然的・物理的な存在である代表者だからです。

例えば、A株式会社の代表取締役甲が、ライバル会社のB株式会社の評判を落とそうとして、「B社は反社会的企業である。」といった虚偽の内容の電子メールをA株式会社名義で作成し、これをメールリストにある多数の人に宛てて送信した場合、その行為は、A株式会社の行為として行われたものではありますが、現実に行動しているのは代表取締役である甲なので、侮辱罪で処罰されるのは、A株式会社ではなく、甲になります。

電子メールを送信
実際に電子メールを送信したのは法人自体ではなく代表取締役

侮辱罪の主体は、自然人である個人

4 客 体

侮辱罪は、人に対する社会的評価を低下させる行為を行った者を処罰することによって外部的名誉を保護しようとする犯罪なので、侮辱罪の客体は人の名誉です。

⑴ 人とは

侮辱罪の実行行為である人に対する社会的評価を低下させる行為を行う者は、自然人でなければなりませんが、侮辱罪の客体である人の名誉にいう「人」は、自然人でなければならないというわけではありません。

つまり、侮辱罪の客体である人の名誉にいう「人」には、自然人だけでなく、法人最決昭58.11.1やその他の団体も含まれます。これは、法人等にも評判や世評といった社会的評価は存在するからです。

侮辱罪の保護法益を名誉感情とする説によれば、侮辱罪の客体には、侮辱を感じることができない幼児・高度の精神障害者・法人・その他の団体は含まれないことになります。

ただし、死者に対する社会的評価を低下させる行為については、別に死者の名誉毀損罪(刑法230条2項)があるので、死者は含まれません。

刑法230条2項(名誉毀損)

死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

また、被害者が誰か分からなければ、人に対する社会的評価が低下するということはないので、被害者は特定していることが必要です。例えば、「九州人」というような漠然とした不特定の集団は含まれません(大判大15.3.24)。

侮辱罪の被害者は、自然人のほかに法人等も含むが、特定していることが必要

⑵ 名誉とは

侮辱罪の客体である人の「名誉」とは、本来あるべき評価(=規範的名誉)である必要はなく、現実に通用している評価(=事実的名誉)でよく、世評と現実が一致していない仮定的名誉や社会的に不当に高い評価を受けている虚名も含まれます。

しかし、人の経済的な支払能力及び支払意思に対する社会的評価である信用は、別に信用毀損罪(刑法233条前段)で保護されているので、ここにいう名誉には含まれません

刑法233条前段(信用毀損及び業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し……た者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

また、名誉は積極的な評価である必要があり、悪名などの消極的な評価は含まれません

なお、名誉には、外部的名誉のほかに、内部的名誉名誉感情(主観的名誉)とがあり、内部的名誉とは、自己又は他人の評価とは独立した客観的に存在している人の価値(=真価)それ自体をいい、名誉感情とは、本人が自己に対して持っている価値意識・感情をいいます。

名誉の種類
名誉の種類

侮辱罪で保護される名誉は、事実的名誉

5 行 為

侮辱罪は、人に対する社会的評価を低下させる行為=事実を摘示しないで公然と人を侮辱することです。

「事実を摘示しなくても」(刑法231条)という文言は、名誉毀損罪の「事実を摘示して」(同法230条1項)という文言を受けたものなので、「事実を摘示しないで」という意味であると解されています。もっとも、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする説によれば、「事実を摘示してもしなくても」という意味に解されることになり、事実を摘示して人を侮辱した場合にも、侮辱罪が成立し得ることになります。

侮辱罪の実行行為=①公然性+②侮辱

⑴ 公然性

ア 公然とは

人に対する社会的評価を低下させる行為は、公然と行われなければなりません。公然とは、不特定又は(・・)多数人が認識することができる(・・・)状態をいいます(大判大3.12.13、最判昭36.10.13)。

不特定 多数人 公然性が認められる。
少数人
特 定 多数人
少数人 公然性が認められない。

したがって、特定かつ(・・少数人に対して人に対する社会的評価を低下させる行為が行われた場合は、公然性が認められず、侮辱罪は成立しません。ただし、直接的には特定かつ少数人に対して人を侮辱する行為が行われたとしても、それが()して間接に不特定又は多数人が認識することができるようになる場合は、公然性が認められ、侮辱罪が成立し得ます(伝播性の理論最判昭34.5.7)。

例えば、甲が自宅でA及びBに対して「C女は男なら誰でもいい尻軽だ。」と言った場合、甲の発言当時に、A及びBが後で自己の多数の友人・知人に対してC女が尻軽であると言い触らすことが予見されるような状態にあれば、公然性が認められ、甲に侮辱罪が成立し得ます。

伝播性の理論
伝播性の理論

また、認識することが「できる」なので、現実に認識されたことは必要ではありません

例えば、新聞や雑誌に人に対する社会的評価を低下させる記事を掲載した場合は、新聞や雑誌を発行して公衆がその記事を読むことができる状態にすれば侮辱罪は成立し得、現実に公衆がその記事を読んだことまでは必要とされません(大判明45.6.27参照)。

イ 不特定・多数人とは

人に対する社会的評価を低下させる行為は、公然と、つまり不特定又は多数人が認識することができるように行われなければなりませんが、ここにいう「不特定」とは、「相手方が限定されていないという意味であり、公開の場所や公道における演説会、新聞や雑誌による事実の摘示」(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.123)をいいます。

また、「多数人」とは、単に複数であればよいのではなく、社会一般に知れ渡る程度の相当の員数を意味します。なお、人に対する社会的評価を低下させる行為は、多数人に対して同時になされる必要はなく、「文書の郵送・個々面接などのばあいのように、多数人に対して連続的になされても」(団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年、p.344)かまいません。

キーワードは伝播可能性

⑵ 侮辱とは

侮辱罪にいう侮辱とは、他人に対して軽蔑の表示をすることをいいます。例えば、以下のような表現がこれに当たります。

  • ばか
  • あほう
  • 変態
  • 悪徳商人 など

軽蔑の表示の方法に限定はなく、言語に限らず、図画・動作(例えば、不浄な物のように塩をまくなどです。なお、不作為を含みます。)等でもかまいません。

6 結 果

侮辱罪を規定している刑法231条は、人を「侮辱した」と規定しているにすぎないので、同罪が成立するためには、事実を摘示しないで公然と人に対する社会的評価を低下させる行為がなされれば足り、現実に人に対する社会的評価、つまり人の名誉が侵害されるといった結果が発生することは必要ではありません。したがって、侮辱罪は抽象的危険犯です。

侮辱罪は抽象的危険犯

7 主観的要件

侮辱罪は故意犯なので、同罪が成立するためには、公然と他人に対して軽蔑の表示をすることの認識・認容といった故意が必要となります。

もっとも、人に対する社会的評価を低下させる目的を持っている必要はありません

侮辱罪は目的犯ではない。

8 違法性

名誉毀損罪の場合は、公然と事実を摘示して人に対する社会的評価を低下させる行為を行ったとしても、刑法230条の2の要件を充たす場合は、違法性が阻却され(=ないものとされ)、同罪は成立しません(真実性の証明による免責)が、侮辱罪は事実の摘示を伴わない犯罪なので、刑法230条の2の適用はありません

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)

1項
 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項
 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項
 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

処罰が阻却される(=名誉毀損罪は成立するが処罰はされない)とする説もあります。

  • 真実性の証明による免責の詳細については「こちら」を参照してください。

なお、政治・学問・芸術などに対する公正な評論や被害者の承諾がある場合には、違法性が阻却されて侮辱罪は成立しません。

侮辱罪には、真実性の証明による免責はない。

9 未遂・既遂

侮辱罪には、未遂を処罰する規定がないので、処罰されません(刑法44条)。

刑法44条(未遂罪)

未遂を罰する場合は、各本条で定める。

また、侮辱罪は抽象的危険犯なので、事実を摘示せずに、公然と人に対する社会的評価を低下させるおそれのある状態を作り出す行為を行えば、既遂に達します。

例えば、有名企業を経営しているAは悪徳商人であるという事実無根の記事を掲載した雑誌が書店の店頭に並んだ場合、まだ誰もその記事を読んでおらず、現実にAに対する社会的評価が低下するに至っていなくても、不特定多数の人がその雑誌を販売している書店を訪れてこれを目にすれば、Aに対する社会的評価は低下するおそれがあるので、記事を作成して雑誌として販売した者によるAに対する侮辱罪は、既遂に達することになります。

書店
実際に記事が読まれなくても侮辱罪は既遂になる。

侮辱罪に未遂はない。

10 罪数・他罪との関係

⑴ 侮辱罪の個数

侮辱罪の保護法益は人の名誉で、名誉は人ごとに存在するので、被害者の数を基準として、つまり、被害者の数に応じた侮辱罪が成立します。

例えば、1通の文書で2人の社会的評価を低下させた場合は、2個の侮辱罪が成立して観念的競合(刑法54条1項前段)となります(東京高判昭35.8.25参照)。

刑法54条1項前段(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合等の処理)

1個の行為が2個以上の罪名に触れ……るときは、その最も重い刑により処断する。

侮辱罪の個数は、被害者の数を基準とする。

⑵ 名誉毀損罪との関係

侮辱罪と類似した犯罪として名誉毀損罪があり、これらは、どちらも人の名誉を保護法益としているという点で共通しています。

そこで、これらをどのように区別するのかが問題となります。

まず、名誉毀損罪と侮辱罪の条文を比較してみます。

刑法230条1項(名誉毀損)

公然と事実を摘示し、人の名誉を()損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法231条(侮辱)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

両者には、名誉毀損罪の場合は「事実を摘示し」と規定されているのに対して、侮辱罪の場合には「事実を摘示しなくても」と規定されているという違いがあります。

したがって、両罪は、事実の摘示の有無によって区別されることになります。つまり、人に対する社会的評価を低下させる言辞を行った場合、

  • 具体的な事実の摘示を伴うものである場合
    名誉毀損罪の成否が問題となる。
  • 具体的な事実の摘示を伴わない単なる価値判断・評価のみを表現した場合
    侮辱罪の成否が問題となる。

ということになります(=名誉毀損罪が成立するときは、侮辱罪は成立しません。)。

例えば、公衆の面前で「Aは大学で2回留年したから頭が悪い。」と言った場合は名誉毀損罪の成否が問題となりますが、「Aは頭が悪い。」と言った場合は侮辱罪の成否が問題となります。

名誉毀損罪と侮辱罪の区別
名誉毀損罪と侮辱罪とは、事実の摘示の有無によって区別される。

なお、侮蔑的言辞を用いて人の名誉を毀損する事実を摘示した場合のように、1個の行為で同時に侮辱と名誉毀損がなされたときは、法条競合として名誉毀損罪のみが成立します。また、刑法230条の2によって名誉毀損罪が成立しないときは、侮辱罪も成立しません

侮辱罪の保護法益を名誉感情とする説によれば、名誉毀損罪と侮辱罪は保護法益が異なることになるので、いずれの場合も侮辱罪が成立し得ます。

名誉毀損罪と侮辱罪は、事実の摘示の有無によって区別される。

⑶ 暴行罪との関係

軽蔑を表示する動作が暴行である場合は、侮辱罪と暴行罪(刑法208条)が成立し、観念的競合となります(団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年、p.388参照)

11 親告罪

名誉に対する罪は、訴追することによってかえって被害者の名誉を侵害するおそれがあるので、告訴がなければ公訴を提起することができないものとされています(刑法232条1項)。

刑法232条1項(親告罪)

この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

このように、告訴がなければ公訴提起することができない犯罪を、親告罪といいます。

告訴権者は、以下のとおりです。

原 則

被害者(刑訴法230条)
被害者の法定代理人(=親権者及び後見人)(同法231条1項)
なお、被害者の法定代理人が、
・被疑者であるとき
・被疑者の配偶者であるとき
・被疑者の4親等内の血族であるとき
・被疑者の3親等内の姻族であるとき
は、被害者の親族は、独立して告訴をすることができます(同法232条)。
被害者が告訴せずに死亡した場合 被害者の配偶者、直系の親族、兄弟姉妹(同法231条2項本文)
ただし、被害者が明示した意思に反することはできません(同項ただし書)。
告訴をすることができる者が、天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるとき 内閣総理大臣が、代わって告訴を行います(刑法232条2項前段)。
告訴をすることができる者が、外国の君主又は大統領であるとき その国の代表者が、代わって告訴を行います(同項後段)。
告訴をすることができる者がない場合
検察官は、利害関係人の申立てにより、告訴をすることができる者を指定することができます(刑訴法234条)。

侮辱罪は親告罪

12 確認問題

⑴ 令和3年度 司法試験 短答式試験 刑法 第12問

名誉毀損罪及び侮辱罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。

ア.事実を摘示せずに公然と人を侮辱することを教唆した者に、侮辱教唆罪が成立することはない。

イ.弁護人が被告人の利益を擁護するためにした弁護活動であれば、それが名誉毀損罪の構成要件に該当する行為であっても、違法性が阻却されるため、名誉毀損罪が成立することはない。

ウ.人の社会的評価を害するに足りる事実を公然と摘示したとしても、その人の社会的評価が現実に害されていない場合、刑法第230条第1項にいう「人の名誉を毀損した」とはいえないため、名誉毀損罪は成立しない。

エ.私人の私生活の行状であっても、その携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度等によっては、刑法第230条の2第1項にいう「公共の利害に関する事実」に当たる場合がある。

オ.インターネットを利用して公然と虚偽の事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合、他の表現手段を利用する場合と異なり、インターネットの個人利用者に要求される水準を満たす調査によって摘示した事実が真実か否かを確かめることなく発信したときに限り名誉毀損罪が成立する。

1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ オ 5.ウ エ

法務省「令和3年司法試験問題」短答式試験(刑法)

ア 解 説

ア.について

事実を摘示せずに、公然と人を侮辱した者には、侮辱罪が成立します。

そして、人を教唆して犯罪を実行させた者には、教唆犯(同法61条1項)が成立します。

刑法61条1項(教唆)

人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

ただし、教唆犯は、教唆した犯罪の法定刑が拘留又は科料のみである場合は、特別の規定がなければ成立しません(同法64条)。

刑法64条(教唆及び幇助の処罰の制限)

拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。

もっとも、侮辱罪の法定刑は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料なので、拘留又は科料のみに処すべき罪には当たらず、侮辱罪を行うように教唆した者には、同罪の教唆犯が成立します。

したがって、ア.は誤りです。

侮辱罪の法定刑が1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となったのは、令和4年7月7日に施行された刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)によるもので、それ以前の同罪の法定刑は拘留又は科料だったので、出題当時は、ア.は正しいです。

イ.について

名誉毀損罪(刑法230条1項)の構成要件に該当する行為であっても、正当行為(同法35条)とされるものであれば、違法性が阻却されて、同罪は成立しません

刑法35条(正当行為)

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

そこで、弁護人が被告人の利益を擁護するためにした弁護活動が正当(業務)行為といえるのかが問題となりますが、判例は、強盗殺人事件の弁護人が、真犯人は被害者の親族である旨の上告趣意書を提出するとともに、その内容を説明する記者会見を開き、更には書物として出版した行為が、被害者の親族の名誉を毀損したとして名誉毀損罪に問われたという事案で、

「名誉毀損罪などの構成要件にあたる行為をした場合であっても、それが自己が弁護人となった刑事被告人の利益を擁護するためにした正当な弁護活動であると認められるときは、刑法35条の適用を受け、罰せられないことは、いうまでもない。しかしながら、刑法35条の適用を受けるためには、その行為が弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならないのであり、かつ、右の判断をするにあたっては、それが法令上の根拠をもつ職務活動であるかどうか、弁護目的の達成との間にどのような関連性をもつか、弁護を受ける刑事被告人自身がこれを行った場合に刑法上の違法性阻却を認めるべきかどうかという諸点を考慮に入れるのが相当である。」

と述べたうえで、当該行為はいずれの観点からも正当化されないとしたものがあります(最決昭51.3.23)。

つまり、被告人の利益を擁護するためにした弁護活動だからといって、必ず正当(業務)行為として違法性が阻却されるというわけではありません

したがって、イ.は誤りです。

ウ.について

名誉毀損罪を規定している刑法230条1項は、人の名誉を「毀損した」と規定していますが、名誉を毀損したとは、人に対する社会的評価を低下させるおそれのある(・・・・・・)状態を生じさせることをいうので、名誉毀損罪が成立するためには、事実を摘示して公然と人に対する社会的評価を低下させる行為がなされれば足り、現実に人に対する社会的評価=人の名誉が侵害されるといった結果が発生することは必要ではありません

したがって、ウ.は誤りです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。
エ.について

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人に対する社会的評価を低下させる行為を行えば成立しますが、そのような行為を行えば常に同罪が成立するわけではなく、刑法230条の2が定める以下の要件を充たす場合は、違法性が阻却され、同罪は成立しません(真実性の証明による免責)。

  1. 摘示した事実が公共の利害に関するものであること(事実の公共性
  2. 事実の摘示が専ら公益を図る目的で行われたこと(目的の公益性
  3. 摘示した事実が真実であることを証明したこと(真実性の証明

そして、ここにいう事実の公共性とは、公共の利益の増進に役立つ事実であることを意味し、原則として、個人のプライバシーに関する私生活上の事実(例えば、身体的・精神的障害、病気、血統、性生活など)については公共性が否定されますが、その人の社会的活動の性質やそれが社会に対して及ぼす影響力の程度などによっては、その社会的活動に対する批判・評価の資料として、公共性が認められることがあります(最判昭56.4.16(月刊ペン事件))。

したがって、エ.は正しいです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。
オ.について

公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合であっても、刑法230条の2の要件(①事実の公共性、②目的の公益性、③真実性の証明)を充たしたときは、名誉毀損罪は成立しません(真実性の証明による免責)。

この点に関しては、人の名誉を毀損する行為がインターネットを通じてなされた場合は、

  • 個人によるインターネット上の情報は一般に信用性が低い
  • 反論も容易である

などから、他の表現方法による場合よりも緩やかな要件で真実性の証明による免責を受けることができるとの見解もあります。

もっとも、判例はこれを否定し、インターネットを通じた表現行為も、他の方法による表現行為の場合と同様の要件の下に真実性の証明による免責が認められるとしています(最決平22.3.15)。

したがって、オ.は誤りです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

イ 解 答

ア.~オ.は、それぞれ、「誤り」「誤り」「誤り」「正しい」「誤り」となります。

したがって、解答はありません

出題当時は、ア.が正しいので、が解答となります。

⑵ 令和2年度 司法試験 短答式試験 刑法 第16問

名誉毀損罪及び侮辱罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。

1.名誉毀損罪及び侮辱罪の保護法益は、いずれも人の外部的名誉であり、法人については、侮辱罪の客体になり得ない。

2.死者であっても、その外部的名誉を保護すべきことに変わりはないので、死者の名誉を毀損する事実が摘示された場合も、その事実の真偽にかかわらず、名誉毀損罪が成立し得る。

3.特定かつ少数の者に特定人の名誉を毀損する事実を摘示した場合、その内容が拡散する可能性があったとしても、「公然と」事実を摘示したことにはならない。

4.風評の形式を用いて人の社会的評価を低下させる事実が摘示された場合、刑法第230条の2にいう「真実であることの証明」の対象となるのは、風評が存在することではなく、そのような風評の内容たる事実が存在することである。

5.表現方法が嘲笑的であるとか、適切な調査がないまま他人の文章を転写しているなどといった、事実を摘示する際の表現方法や事実調査の程度は、摘示された事実が刑法第230条の2にいう「公共の利害に関する事実」に当たるか否かを判断する際に考慮すべき要素の一つである。

法務省「令和2年司法試験問題」短答式試験(刑法)

ア 解 説

1.について

名誉毀損罪及び侮辱罪の保護法益は、いずれも外部的名誉(=人に対する社会的評価)で、評判や世評といった社会的評価は法人にも存在するので、法人も侮辱罪の客体となります。

したがって、1.は誤りです(及び4⑴参照)。

  • 名誉毀損罪の詳細については「こちら」を参照してください。
2.について

死者の名誉毀損罪の保護法益は死者自身の外部的名誉ですが、同罪は虚偽の事実を摘示して死者の名誉を毀損した場合でなければ成立しません。

したがって、2.は誤りです。

  • 死者の名誉毀損罪の詳細については「こちら」を参照してください。
3.について

(死者の)名誉毀損罪が成立するためには、公然と(虚偽の)事実を摘示することが必要となります。

そして、公然とは、不特定又は多数人が認識することができる状態を意味するので、特定かつ少数人に対して事実を摘示したにすぎない場合は、公然と事実を摘示したことにはなりません。

もっとも、直接的には特定かつ少数人に対して事実を摘示したとしても、それが伝播して間接に不特定又は多数人が認識することができるようになる場合は、公然性が認められるとされています(伝播性の理論最判昭34.5.7)。

したがって、3.は誤りです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。
4.について

真実性の証明による免責(刑法230条の2)を受けるためには、摘示事実が真実であることの証明(真実性の証明)が必要となります。

そして、人の名誉を毀損する行為が風聞やうわさの形でなされた場合に「人の名誉が害されるのは、噂の内容たる事実が実在するという印象を与えるため」(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、p.54)なので、そのような場合における真実性の証明の対象となるのは、「噂や風聞自体の存在ではなく、内容たる事実の存在」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.704)となります(最決昭43.1.18)。

したがって、4.は正しいです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。
5.について

真実性の証明による免責(刑法230条の2)を受けるためには、摘示事実が公共の利害に関する事実に係るものであること(事実の公共性)、及び事実の摘示が専ら公益を図る目的で行われたこと(目的の公益性)が必要となります。

そして、摘示された事実に公共性が認められるかどうかは、その事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断され、表現方法の不当性や事実調査の程度等は、目的の公益性の認定で考慮されます(最判昭56.4.16(月刊ペン事件))。

したがって、5.は誤りです。

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

イ 解 答

1.~5.は、それぞれ、「誤り」「誤り」「誤り」「正しい」「誤り」となります。

したがって、解答はということになります。

⑶ 平成27年度 司法試験予備試験 短答式試験 刑法・刑事訴訟法 第2問

名誉毀損罪(刑法第230条)と侮辱罪(刑法第231条)の保護法益に関する次の各【見解】についての後記アからオまでの各【記述】を検討した場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。

【見 解】

A説:名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は、いずれも人の外部的名誉(社会的評価、社会的名誉)であり、名誉毀損罪と侮辱罪の違いは、事実の摘示の有無である。

B説:名誉毀損罪の保護法益は人の外部的名誉(社会的評価,社会的名誉)であり、侮辱罪の保護法益は人の主観的名誉(名誉感情)である。

【記 述】

ア.A説によれば、刑法第231条で侮辱が被害者の面前において行われることを要件としていないのは、公然たる侮辱の言葉はやがて本人に伝わるので面前性は不要だからであると考えられる。

イ.A説に対しては、刑法第231条の「事実を摘示しなくても」との文言は文字どおりに解すべきであって「事実を摘示しないで」という意味にはならないはずであるとの批判がある。

ウ.B説によれば、刑法第231条で公然性が要件とされているのは、侮辱行為が公然となされるかどうかでその当罰性に差異が生ずるからであると考えられる。

エ.B説に対しては、幼児・重度の精神障害者・法人に対する侮辱罪が成立しないのは妥当でないとの批判がある。

オ.B説に対しては、名誉毀損罪と侮辱罪の法定刑の差を説明できないという批判がある。

1.ア イ ウ
2.ア イ エ
3.イ ウ エ
4.イ エ オ
5.ウ エ オ

法務省「平成27年司法試験予備試験問題」短答式試験(刑法・刑事訴訟法)

ア 解 説

ア.について

ア.の記述は、侮辱罪の成立要件として侮辱が本人の面前で行われることを必要としていないのは、公然となされた侮辱の言葉がやがて本人に伝わることになるからとしています。

これは、侮辱の言葉が本人に伝わることを侮辱罪が成立する前提としているものと解することができます。

そして、人に対する社会的評価は侮辱の言葉が不特定又は多数人に伝われば本人に伝わらなくても低下することがある一方で、名誉感情は被害者本人に伝わらなければ害されることはありません

そうすると、ア.の記述は、侮辱罪の保護法益を外部的名誉とするA説ではなく、名誉感情とするB説についての記述であると解することができます。

したがって、ア.は誤りです。

イ.について

侮辱罪を規定する刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定していますが、ここにいう「事実を摘示しなくても」とは、通常の日常的な解釈では、「事実を摘示してもしなくても」というように捉えるのが普通です。

しかし、A説のように、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益をいずれも人の外部的名誉と捉えると、両罪を保護法益の違いによって区別することはできないので、「事実を摘示しなくても」とは、通常の日常的な解釈とは異なり、「事実を摘示しないで」という意味に捉えることによって、両罪を区別することになります。

一方で、B説のように、名誉毀損罪の保護法益を人の外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情というように異なるものとして捉えると、両罪を保護法益の違いによって区別することができるので、「事実を摘示しなくても」とは、通常の日常的な解釈と同様に、「事実を摘示してもしなくても」という意味に捉えることができます

そこで、B説からは、A説に対して、イ.の記述のような批判をすることができます。

したがって、イ.は正しいです。

ウ.について

人の外部的名誉は、人に対する社会的評価なので、これが害されるためには、人に対する社会的評価を低下させる行為が、社会一般の不特定又は多数人に知れ渡るように、つまり、公然と行われなければなりません。

一方で、名誉感情は、社会一般の人がどのような評価をしているかとはかかわりなく、個々人が持っている主観的なものなので、これが害されるためには、人を侮辱する行為が侮辱の対象となっている人に伝わるかどうかが重要で、必ずしも社会一般の不特定又は多数人に知れ渡るように、つまり、公然と行われる必要はないということができます。

そうすると、侮辱罪の保護法益を名誉感情とするB説に対しては、保護法益をそのように捉えると、侮辱罪が成立するためには公然性が要件とはならないはずなのに、刑法が公然性を侮辱罪の成立要件としているのはなぜなのかという疑問が生じることになります。

これに対しては、人を侮辱する行為が公然と行われなかった場合よりも公然と行われた場合の方が、名誉感情が害される程度が大きく、そのような程度に至った場合に初めて人を侮辱する行為が処罰に値するものとなると説明することができます。

したがって、ウ.は正しいです。

エ.について

人の外部的名誉は、侮辱の対象となった人がどのような感情を抱いたかにかかわりなく存在するもので、人を侮辱する行為が公然と行われれば害されるので、A説のように侮辱罪の保護法益を人の外部的名誉と捉えれば、人を侮辱する行為が公然と行われた場合には、それが名誉感情を持ち得ないものに対するものであったとしても、侮辱罪の成立を認めることができます

一方で、名誉感情は、人に対する社会的評価とはかかわりなく個々人が持っている主観的なものなので、B説のように侮辱罪の保護法益を名誉感情と捉えれば、人を侮辱する行為が公然と行われたとしても、名誉感情を持ち得ないものに対しては、侮辱罪の成立を認めることはできません

そして、幼児・重度の精神障害者・法人は名誉感情を持ち得ない存在なので、これらのものを侮辱する行為が公然と行われた場合、A説からは侮辱罪の成立を認めることができますが、B説からは侮辱罪の成立を認めることができないということになります。

そこで、A説からはB説に対して、エ.の記述のような批判をすることができることになります。

したがって、エ.は正しいです。

オ.について

人の外部的名誉は、不特定又は多数人による人に対する評価という社会的なものです。

一方、名誉感情は、個々人が持っている主観的なもので、人の外部的名誉よりも曖昧で不明確なものであるということができます。

そうすると、名誉感情よりも人の外部的名誉の方が、刑法上保護する必要性が高い利益であるということができます。

そこで、名誉毀損罪の保護法益を人の外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情とするB説からは、名誉毀損罪の法定刑(=3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)の方が侮辱罪の法定刑(=1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)よりも重くなっているのは、両罪の保護法益の差によるものと説明することができます

したがって、オ.は誤りです。

イ 解 答

ア.~オ.は、それぞれ、「誤り」「正しい」「正しい」「正しい」「誤り」となります。

したがって、解答はということになります。

⑷ 平成19年度 旧司法試験 第二次試験 短答式試験 第54問

学生AとBは、名誉毀損罪の保護法益について、共に「外部的名誉」であるとの見解を採り、侮辱罪の保護法益について、「外部的名誉」である又は「名誉感情」であるとのいずれか異なる見解を採った上、次のⅠからⅢまでの事例における甲の罪責について会話している。発言中の( )内から適切なものを選び、【 】内にⅠからⅢまでのいずれか異なる適切な事例を入れた場合、①から⑩までに入るものの組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。

【事例】

Ⅰ 甲は、某県の知事を務めるXについて、遠方の他県の繁華街で、「X知事は、ばかだ。」と叫んだ。

Ⅱ 甲は、Xが経営するY病院の外壁に、「X院長は、妻子がいるにもかかわらず、3人の看護師を愛人にしている好色医者だ。」と書いた紙をはり付けた。

Ⅲ 甲は、X株式会社の本社ビル付近の路上で、「X社は、悪徳企業だ。」と記載したビラを多数の通行人に配布した。

【発言】

学生A 【①】の事例では、僕は、甲に名誉毀損罪も侮辱罪も成立すると考える。両罪の保護法益は、②(a同一である・b異なる)と解するからである。僕は、両罪の法定刑の差は、③(a保護法益の違いではなく、事実の摘示の有無という行為態様の違い・b事実の摘示の有無という行為態様の違いだけでなく、保護法益の違い)によると考える。

学生B 【①】の事例では、僕は、A君と違って、甲に侮辱罪は成立しないと考える。僕は、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は、④(a同一である・b異なる)と解し、「事実を摘示しなくても」という刑法第231条の文言を⑤(a事実を摘示せずに・b事実を摘示してもしなくても)という意味に解するからである。僕の見解によれば【⑥】の事例では、甲に侮辱罪が⑦(a成立する・b成立しない)ことになる。⑧(a法人も社会的に存在する主体としてその社会的評価について利害を有する・b法人は名誉感情をもたない)からである。

学生A 【⑥】の事例では、僕の見解によれば、B君とは結論が異なる。

学生B 【⑨】の事例では、僕の見解によれば、甲に侮辱罪が成立するが、A君が考える保護法益からすれば、甲に侮辱罪は成立しないのではないか。

学生A 僕の見解によっても、【⑨】の事例では、甲に侮辱罪の成立を認めることが可能である。⑩(a事実の摘示がなくてもXの外部的名誉が害される危険性がある・b侮辱行為が公然となされたときは、やがてXがそのことを認識して名誉感情が害される危険性がある)からである。

1.①Ⅱ③a⑧a 2.①Ⅰ④a⑩a 3.②b⑤a⑨Ⅲ
4.②a⑥Ⅲ⑩b 5.③b⑦a⑨Ⅰ

法務省「旧司法試験第二次試験短答式試験問題」平成19年度問題

ア 解 説

完成文は、以下のようになります。

学生A 【①】の事例では、僕は、甲に名誉毀損罪も侮辱罪も成立する※1と考える。両罪の保護法益は、②(a同一である・b異なる)と解する※2からである。僕は、両罪の法定刑の差は、③(a保護法益の違いではなく、事実の摘示の有無という行為態様の違い・b事実の摘示の有無という行為態様の違いだけでなく、保護法益の違い)による※3と考える。

学生B 【①】の事例では、僕は、A君と違って、甲に侮辱罪は成立しないと考える。僕は、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は、④(a同一である・b異なる)と解し、「事実を摘示しなくても」という刑法第231条の文言を⑤(a事実を摘示せずに・b事実を摘示してもしなくても)という意味に解する※4からである。僕の見解によれば【⑥】の事例では、甲に侮辱罪が⑦(a成立する・b成立しない)ことになる。⑧(a法人も社会的に存在する主体としてその社会的評価について利害を有する・b法人は名誉感情をもたない)からである※5

学生A 【⑥】の事例では、僕の見解によれば、B君とは結論が異なる。

学生B 【⑨】の事例※6では、僕の見解によれば、甲に侮辱罪が成立するが、A君が考える保護法益からすれば、甲に侮辱罪は成立しないのではないか。

学生A 僕の見解によっても、【⑨】の事例では、甲に侮辱罪の成立を認めることが可能である。⑩(a事実の摘示がなくてもXの外部的名誉が害される危険性がある・b侮辱行為が公然となされたときは、やがてXがそのことを認識して名誉感情が害される危険性がある)からである※7

  1. ①には、名誉毀損罪が成立する事例が入ります。名誉毀損罪が成立するためには、事実を摘示することが必要で、このことは、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益をどのように考えるかにかかわりません。そして、事例Ⅰ~Ⅲのうち、事実の摘示を伴っているのは、事例Ⅱのみです。したがって、①にはが入ります。
  2. 名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益を共に外部的名誉とすると、両罪は事実の摘示の有無によって区別されることになるので、両罪が同時に成立することはありません。一方で、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情というように異なるものとすると、両罪は保護法益の違いによって区別されることになるので、同一の行為について両罪が同時に成立することがあり得ます。したがって、②にはが入ります(10⑵参照)。
  3. 学生Aは、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情というように、異なるものとしています。そうすると、両罪は保護法益の違いによって区別されることになります。したがって、③にはが入ります。
  4. 学生Aが、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情としている以上、これと異なる見解をとる学生Bは、両罪の保護法益を共に外部的名誉としていることになります。そして、両罪の保護法益を共に外部的名誉とすると、両罪は事実の摘示の有無によって区別されることになります。したがって、④及び⑤にはが入ります(10⑵参照)。
  5. ⑧の記述から、⑥には、法人に対する侮辱罪の成否が問題となる事例が入ることが分かります。そして、事例Ⅰ~Ⅲのうち、行為の客体が法人となっているのは、事例Ⅲのみです。したがって、⑥にはが入ります。学生Bは、侮辱罪の保護法益を外部的名誉としており、そのような見解によれば、外部的名誉は法人にも存在するので、法人にも侮辱罪が成立し得ます。したがって、⑦及び⑧にはが入ります(4⑴参照)。
  6. ①及び⑥には、それぞれ、事例Ⅱ及びⅢが入ります。したがって、⑨にはが入ります。
  7. 学生Aは、侮辱罪の保護法益を名誉感情としているので、事例Ⅰにおいて侮辱罪が成立するためには、甲の行為がXの名誉感情を害したということが理由とならなければなりません。したがって、⑩にはが入ります。

イ 解 答

①~⑩には、それぞれ、

①Ⅱ ②b ③b ④a ⑤a ⑥Ⅲ ⑦a ⑧a ⑨Ⅰ ⑩b

が入ります。

したがって、解答はということになります。

⑸ 平成18年度 新司法試験 短答式試験 刑事系科目 第16問

学生AとBは、侮辱罪と名誉毀損罪について、次のとおり会話している。【発言】中の( )内から適切な語句を選んだ場合、その組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。

【発 言】

学生A.私は、侮辱罪の保護法益は、①(a.外部的名誉・b.名誉感情)であると解し、名誉毀損罪の保護法益と②(c.同じである・d.異なる)と考える。

学生B.反対である。私は、侮辱罪の保護法益は、③(e.外部的名誉・f.名誉感情)であると解する。私のように考えて初めて名誉毀損罪と侮辱罪の法定刑に著しい差があることの説明が可能になると思う。

学生A.いや、その点は、私の見解でも、④(g.公然性・h.事実の摘示)の有無の違いという説明が可能である。Bさんの見解では、侮辱罪の成立に、⑤(i.公然性・j.事実の摘示)が要件とされていることを説明できないと思う。

学生B.いや、侮辱罪は、(③)を侵害した場合で(⑤)がある場合にのみ処罰する趣旨であるという説明が可能である。

学生A.しかし、Bさんの見解を徹底すると、保護法益である(③)を明らかに侵害するような⑥(k.面前での侮辱行為・l.公の場所での侮辱行為)でも、侮辱罪の成立が否定されることになり、妥当ではないと思う。保護法益に関するBさんの考え方には疑問がある。

学生B.保護法益に関する考え方の違いは、法人に対する侮辱罪の成否に影響することになるね。

学生A.そのとおりだ。Bさんと異なり、私は、法人に対して侮辱罪が⑦(m.成立する・n.成立しない)と考える。この考え方は、最高裁判所の判例の見解と⑧(o.同じである・p.異なる)。

1.①b④g⑦n 2.①a⑤i⑧o 3.②c⑥l⑧p 4.③e④h⑥k
5.③f⑤j⑦m

平成18年度 新司法試験 短答式試験 刑事系科目 第16問

ア 解 説

完成文は、以下のようになります。

学生A.私は、侮辱罪の保護法益は、①(a.外部的名誉・b.名誉感情)であると解し、名誉毀損罪の保護法益と②(c.同じである・d.異なる)と考える※2

学生B.反対である。私は、侮辱罪の保護法益は、③(e.外部的名誉・f.名誉感情)であると解する。私のように考えて初めて名誉毀損罪と侮辱罪の法定刑に著しい差があることの説明が可能になる※1と思う。

学生A.いや、その点は、私の見解でも、④(g.公然性・h.事実の摘示)の有無の違い※3という説明が可能である。Bさんの見解では、侮辱罪の成立に、⑤(i.公然性・j.事実の摘示)が要件とされていることを説明できない※4と思う。

学生B.いや、侮辱罪は、(③f.名誉感情)を侵害した場合で(⑤i.公然性)がある場合にのみ処罰する趣旨であるという説明が可能である。

学生A.しかし、Bさんの見解を徹底すると、保護法益である(③f.名誉感情)を明らかに侵害するような⑥(k.面前での侮辱行為・l.公の場所での侮辱行為)でも、侮辱罪の成立が否定される※5ことになり、妥当ではないと思う。保護法益に関するBさんの考え方には疑問がある。

学生B.保護法益に関する考え方の違いは、法人に対する侮辱罪の成否に影響することになるね。

学生A.そのとおりだ。Bさんと異なり、私は、法人に対して侮辱罪が⑦(m.成立する・n.成立しない)※6と考える。この考え方は、最高裁判所の判例の見解と⑧(o.同じである・p.異なる)※7

  1. 侮辱罪の保護法益については、名誉感情とする見解と、名誉毀損罪と同じく外部的名誉とする見解があります。学生Bは、名誉毀損罪と侮辱罪との保護法益が違うことが、両罪の法定刑の差を導いているとする見解をとっています。したがって、③にはが入ります(参照)。
  2. 侮辱罪の保護法益については、名誉感情とする見解と、名誉毀損罪と同じく外部的名誉とする見解があります。そして、学生Bの第1発言で、学生Bは侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解をとっていること及び学生Aは、学生Bとは異なる見解をとっていることが分かります。したがって、①には、②にはが入ります(参照)。
  3. 学生Aは、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益をともに外部的名誉とする見解をとっています。そのような見解によれば、両罪を保護法益の違いで区別することができない以上、両罪は事実の摘示の有無で区別されることになります。したがって、④にはが入ります(10⑵参照)。
  4. 侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解に対しては、名誉感情は、公然と行われなくても、例えば、面前で人を侮辱する言動が行われれば侵害されるので、侮辱罪の成立に公然性を要件とする必要はないはずだという批判をすることができます。また、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解によれば、名誉毀損罪と侮辱罪とは保護法益の違いで区別することができる以上、事実の摘示の有無によって両罪を区別する必要はないので、侮辱罪を規定した刑法231条の「事実を摘示しなくても」という文言を、通常の日常的な解釈とは異なって、事実を摘示しないでと解釈する必要はなく、通常の日常的な解釈と同じく、事実を摘示してもしなくてもと解釈する=事実の摘示が必ずしも侮辱罪の成立要件となるわけではないことになります。したがって、⑤にはが入ります。
  5. 侮辱罪の成立には公然性が要求されるので、公然とではなく人を侮辱する行為が行われた場合、保護法益である名誉感情が侵害されているにもかかわらず、同罪が成立しないことになります。したがって、⑥にはが入ります。
  6. 学生Aは、侮辱罪の保護法益を外部的名誉とする見解をとっています。そして、外部的名誉は法人にも存在するので、学生Aの見解によれば、法人にも侮辱罪が成立し得ます。したがって、⑦にはが入ります(4⑴参照)。
  7. 最高裁の判例は、法人に対する侮辱罪の成立を肯定しています(最決昭58.11.1)。したがって、⑧にはが入ります(4⑴参照)。

イ 解 答

①~⑧には、それぞれ、

①a ②c ③f ④h ⑤i ⑥k ⑦m ⑧o

が入ります。

したがって、解答はということになります。

⑹ 平成16年度 司法試験 第二次試験 短答式試験 第42問

次の文章の【 】内に後記アからクまでの文章を正しく入れると、侮辱罪に関する記述となる。①から⑧までに入る文章の組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。なお、後記アからカまでの文章中の( )内には、「外部的名誉」又は「名誉感情」のいずれかが入る。

「侮辱罪の保護法益について、【①】とする見解と【②】とする見解がある。侮辱罪に『公然と』という要件が設けられている理由については、【①】とする見解からは、【③】との説明が可能であるが、【②】とする見解からは、【④】との説明が可能である。侮辱罪における『事実を摘示しなくても』という文言については、【①】とする見解では、【⑤】と解して名誉毀損罪と区別するが、【②】とする見解では、【⑥】と解することとなる。侮辱罪の客体となる『人』の範囲については、【①】とする見解からは、【⑦】と解することとなるが、【②】とする見解からは、【⑧】と解することとなる。さらに、具体的事実を公然と摘示して人の外部的名誉と名誉感情とを共に毀損した場合、【①】とする見解からは、侮辱罪は成立しないこととなるが、【②】とする見解からは、侮辱罪が成立すると考える余地がある。」

ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく( )である

イ 侮辱罪の保護法益は( )であり、名誉毀損罪の保護法益は( )である

ウ ( )は公然性がなくても害されるのであるから、侮辱罪が公然性を成立要件としているのは、( )を保護法益とするからにほかならない

エ 侮辱行為が公然となされることにより( )は著しく害されることから、法はこの場合のみを当罰的と考えたからである

オ ( )を持ち得ない幼児や法人等の団体は除外される

カ ( )を持ち得ない幼児や法人等の団体も含まれる

キ 事実を摘示してもしなくても、という意味である

ク 事実を摘示しないで、という意味であり、事実を摘示した場合を含まない

1.②ア⑥キ 2.③エ⑤キ 3.③ウ⑥ク 4.④エ⑦オ 5.⑤ク⑧オ

法務省「旧司法試験第二次試験短答式試験問題」平成16年度問題

ア 解 説

ア~カまでの文章の完成文は、以下のようになります。

※1 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である

※1 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である

※2 (名誉感情)は公然性がなくても害されるのであるから、侮辱罪が公然性を成立要件としているのは、(外部的名誉)を保護法益とするからにほかならない

※3 侮辱行為が公然となされることにより(名誉感情)は著しく害されることから、法はこの場合のみを当罰的と考えたからである

※4 (名誉感情)を持ち得ない幼児や法人等の団体は除外される

※4 (名誉感情)を持ち得ない幼児や法人等の団体も含まれる

  1. 名誉毀損罪の保護法益については、外部的名誉とすることに争いはありませんが、侮辱罪の保護法益については、名誉毀損罪と同じく外部的名誉とする見解と、名誉感情とする見解があります(参照)。
  2. 名誉感情は本人が自己に対して持っている価値意識・感情という主観的なものですが、外部的名誉は人に対する社会的評価という客観的なものなので、前者は公然性がなくても害されますが、後者は公然性がなければ害されません。
  3. 侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解は、侮辱罪の成立に侮辱行為が公然となされることが要求されているのは、侮辱行為が公然となされない場合よりも公然となされた場合の方が、名誉感情が害される程度が大きく、その程度に至って初めて処罰に値すると主張しています。
  4. 評判・世評といった社会的評価は、幼児や法人等の団体についても存在し得ますが、それらの者が名誉感情を持つということはあり得ません(4⑴参照)。

設問文章の完成文は、以下のようになります。

「侮辱罪の保護法益について、【①ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である】とする見解と【②イ 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である】とする見解がある。侮辱罪に『公然と』という要件が設けられている理由については、【①ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である】とする見解からは、【③ウ (名誉感情)は公然性がなくても害されるのであるから、侮辱罪が公然性を成立要件としているのは、(外部的名誉)を保護法益とするからにほかならない】との説明が可能であるが、【②イ 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である】とする見解からは、【④エ 侮辱行為が公然となされることにより(名誉感情)は著しく害されることから、法はこの場合のみを当罰的と考えたからである】との説明が可能である※2侮辱罪における『事実を摘示しなくても』という文言については、【①ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である】とする見解では、【⑤ク 事実を摘示しないで、という意味であり、事実を摘示した場合を含まない】と解して名誉毀損罪と区別する※1が、【②イ 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である】とする見解では、【⑥キ 事実を摘示してもしなくても、という意味である】と解することとなる※3侮辱罪の客体となる『人』の範囲については、【①ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である】とする見解からは、【⑦カ (名誉感情)を持ち得ない幼児や法人等の団体も含まれる】と解することとなるが、【②イ 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である】とする見解からは、【⑧オ (名誉感情)を持ち得ない幼児や法人等の団体は除外される】と解する※4こととなる。さらに、具体的事実を公然と摘示して人の外部的名誉と名誉感情とを共に毀損した場合、【①ア 侮辱罪の保護法益は名誉毀損罪と同じく(外部的名誉)である】とする見解からは、侮辱罪は成立しないこととなるが、【②イ 侮辱罪の保護法益は(名誉感情)であり、名誉毀損罪の保護法益は(外部的名誉)である】とする見解からは、侮辱罪が成立すると考える余地がある。」

  1. 侮辱罪を規定した刑法231条の「事実を摘示しなくても」という文言に着目して名誉毀損罪と侮辱罪を区別するのは、両罪を保護法益の違いによって区別することができない見解、つまり、侮辱罪と名誉毀損罪の保護法益を共に外部的名誉とする見解です。したがって、①には、⑤にはが入ります(10⑵参照)。
  2. 侮辱罪を規定した刑法231条が「公然と」と規定して同罪の成立に公然性という客観的要件を要求しているのは、侮辱罪の保護法益が客観的なのものであることを前提としていると解することができ、そのことを侮辱罪の保護法益を外部的名誉とする見解の根拠とすることができます。一方で、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解は、侮辱行為が公然となされない場合よりも公然となされた場合の方が、名誉感情が害される程度が大きく、その程度に至って初めて処罰に値すると主張しています。したがって、③には、④にはが入ります。
  3. 侮辱罪の保護法益については、名誉毀損罪と同じく外部的名誉とする見解と、名誉感情とする見解があり、①には前者の見解に対応するアが入るので、②には後者の見解に対応するが入ります。そして、侮辱罪の保護法益を名誉感情、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉とする見解は、両罪を保護法益の違いによって区別することができるので、侮辱罪を規定した刑法231条の「事実を摘示しなくても」という文言は、通常の日常的な解釈と同様に、「事実を摘示してもしなくても」という意味であると捉えることができます。したがって、⑥にはが入ります。
  4. 幼児や法人等についても、評判や世評といった外部的名誉は存在しますが、名誉感情を持つことはないので、幼児や法人等については、侮辱罪の保護法益を外部的名誉とした場合にのみ、同罪が成立し得ることになります。したがって、⑦には、⑧にはが入ります(4⑴参照)。

イ 解 答

①~⑧には、それぞれ、

①ア ②イ ③ウ ④エ ⑤ク ⑥キ ⑦カ ⑧オ

が入ります。

したがって、解答はということになります。

⑺ 平成11年度 司法試験 第二次試験 短答式試験 第49問

次の文章の( )内に語句群から適切な語句を入れると、名誉()損罪と侮辱罪の区別に関する説明となる。(①)から(⑧)までに入る語句の組合せのうち、正しいものは何個あるか。

「( )を保護するのが名誉毀損罪で、( )を保護するのが侮辱罪であるとする見解甲は、両罪の法定刑の著しい相違は(①)の相違に根拠を求める以外に説明ができないこと、(②)に『事実を摘示しなくても』と規定されているのは( )がある場合とない場合を含む趣旨であることを、その論拠とする。この見解によれば、( )を持ち得ない幼児や( )などは(③)され得ないことになるし、( )行為が事実証明の規定により不可罰となっても(④)は成立し得るとされる。これに対し、両罪の( )は共に(⑤)であり、( )を伴う場合が名誉毀損罪で、伴わない場合が侮辱罪であるとする見解乙は、名誉に関する個人の主観や意識である( )を刑法的保護の対象とすべきでないこと、( )に『事実を摘示しなくても』と規定されていること自体が両罪を区別していると解釈すべきであることを、その論拠とする。この見解によれば、( )を持ち得ない幼児や(⑥)も(⑦)について( )され得るし、( )行為が事実証明の規定により不可罰となれば一般に( )も成立しないとされる。そして、見解丙は、両罪の区別については見解(⑧)と同じく理解するが、( )については両罪とも( )及び( )であると考える。」

【語句群】

a侮辱罪   b名誉毀損罪  c外部的名誉  d名誉感情
e保護法益  f法人     g事実の摘示  h侮辱
i名誉毀損  j甲      k乙

【組合せ】

ア ①e④a⑦d  イ ①e⑤d⑧k  ウ ②b⑥f⑧k
エ ②a⑦c⑧j  オ ③h⑤c⑦c

1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個

法務省「旧司法試験第二次試験短答式試験問題」平成11年度問題

ア 解 説

完成文は、以下のようになります。

c外部的名誉)を保護するのが名誉毀損罪で、(d名誉感情)を保護するのが侮辱罪であるとする見解甲は、両罪の法定刑の著しい相違は(①e保護法益)の相違に根拠を求める※1に説明ができないこと、(②a侮辱罪)に『事実を摘示しなくても』と規定されているのは(g事実の摘示)がある場合とない場合を含む趣旨である※2ことを、その論拠とする。この見解によれば、d名誉感情)を持ち得ない幼児や(f法人)などは(③h侮辱)され得ない※3ことになるし、i名誉毀損)行為が事実証明の規定により不可罰となっても(④a侮辱罪)は成立し得る※4とされる。これに対し、両罪の(e保護法益)は共に(⑤c外部的名誉)であり、(g事実の摘示)を伴う場合が名誉毀損罪で、伴わない場合が侮辱罪であるとする見解乙は、名誉に関する個人の主観や意識である(d名誉感情)を刑法的保護の対象とすべきでない※5こと、(a侮辱罪)に『事実を摘示しなくても』と規定されていること自体が両罪を区別していると解釈すべきであることを、その論拠とする。この見解によれば、(d名誉感情)を持ち得ない幼児や(⑥f法人)も(⑦c外部的名誉)について(h侮辱)され得る※6し、(i名誉毀損)行為が事実証明の規定により不可罰となれば一般に(a侮辱罪)も成立しないとされる。そして、見解丙は、両罪の区別については見解(⑧k乙)と同じく理解するが、(e保護法益)については両罪とも(c外部的名誉)及び(d名誉感情)であると考える※7。」

  1. 「( )を保護するのが名誉毀損罪で、( )を保護するのが侮辱罪であるとする」との記述から、見解甲は、名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益を異なるものと捉える見解であることが分かります。したがって、①にはが入ります(参照)。
  2. 名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解は、両罪を保護法益の違いによって区別することができるので、侮辱罪を規定した刑法231条の「事実を摘示しなくても」という文言は、通常の日常的な解釈と同様に、「事実を摘示してもしなくても」=「事実の摘示がある場合とない場合を含む」と捉えることができます。したがって、②にはが入ります。
  3. 「この見解(=名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解)によれば、( )を持ち得ない幼児」との記述から、( )には外部的名誉と名誉感情のいずれかが入ることになりますが、幼児にも評判や世評といった外部的名誉は存在するので、( )には名誉感情が入ります。そして、名誉感情を持ち得ない者には、名誉感情が侵害されるということはないので、侮辱罪は成立しない=侮辱されることはないということになります。したがって、③にはが入ります(4⑴参照)。
  4. 真実性の証明による免責(刑法230条の2)の根拠は、公共の利害に関する事実を、専ら公益を図る目的で摘示する行為は、客観的に価値が高いということにあるので、これによって外部的名誉という客観的な価値を侵害する行為の違法性が阻却されることになりますが、名誉感情という主観的な価値を侵害する行為の違法性を阻却することにはなりません。そうすると、名誉毀損罪の保護法益を外部的名誉、侮辱罪の保護法益を名誉感情とする見解によれば、真実性の証明による免責がなされた場合、名誉毀損罪の成立は否定することができますが、侮辱罪の成立は否定することはできないということになります。したがって、④にはが入ります。
  5. 「これに対し」及び「共に」という記述から、見解乙は、見解甲とは異なり、名誉毀損罪の保護法益と侮辱罪の保護法益を共通のものとする見解であることが分かります。また、「名誉に関する個人の主観や意識……を刑法的保護の対象とすべきでない」との記述から、見解乙は、名誉毀損罪の保護法益と侮辱罪の保護法益を客観的なものと捉えていることが分かります。したがって、⑤にはが入ります。
  6. 「( )を持ち得ない幼児」という記述については、幼児にも評判や世評といった外部的名誉は存在し、幼児が持ち得ないのは名誉感情なので、( )には名誉感情が入ります。そして、そのことは法人であっても同様です。したがって、⑥には、⑦にはが入ります(4⑴参照)。
  7. 外部的名誉と名誉感情を切り離して考えることはできないとすれば、名誉毀損罪及び侮辱罪の保護法益を、外部的名誉及び名誉感情と構成する立場もあり得ます(大塚裕史『刑法各論の思考方法』第3版、早稲田経営出版、2010年、p.398参照)。したがって、⑧にはが入ります。

イ 解 答

①~⑧には、それぞれ、

①e ②a ③h ④a ⑤c ⑥f ⑦c ⑧k

が入るので、正しい組合せはのみです。

したがって、解答はということになります。

13 参考文献

  • 井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年
  • 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第12巻)、青林書院、2019年
  • 大塚裕史『刑法各論の思考方法』第3版、早稲田経営出版、2010年
  • 大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年
  • 高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年
  • 団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年
  • 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年
  • 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年
  • 山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年
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