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詐欺や違法薬物の販売などの犯罪行為を行った場合、それによって得た利益はどうなるのでしょうか。犯罪行為によって得た利益を犯人の下にそのまま保持されてしまうのでしょうか。
もしそのようなことになれば、犯人対して懲役などの刑罰を科したとしても、犯人に対する制裁や犯罪を抑止する効果として十分ではないということができます。
例えば、違法薬物の販売によって億単位の巨額の金銭を得てしまえば、たとえ何年間か刑務所に入れられることになったとしても、それさえ我慢すれば、刑務所から出た後は遊んで暮らせるなどと考えて、捕まることを覚悟で違法薬物の販売に手を染めるという者がいても不思議ではありません。
また、いかに刑務所で何年も過ごしたからといっても、犯罪行為という不正な方法で得た財産を犯人がそのまま保有し続けることを認めることは、社会的に見ても正義に適うものとはいえません。
そこで、そのような不都合を回避するために、刑法は没収という刑罰を定めています。
以下では、どのような場合にどのような物が没収されるのか、また、不正に得た財産を使い切ってしまった場合などのように、没収することができない場合にはどうするのか等について解説します。
1 意 義
没収とは、犯罪を原因として物の所有権を原所有者から剥奪して国庫に帰属させる処分で、犯罪者から財産的利益を剝奪することを内容とする財産刑の一種です。
没収は、付加刑なので、独立して科することはできません。
例えば、賭博をした場合には、賭博罪として50万円以下の罰金又は科料に処されることになりますが(刑法185条)、さらに、その者が賭博によって得た財物も、罰金又は科料に付加して没収することができます。一方で、罰金又は科料を科することなく、没収のみを科することはできません。
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
没収は付加刑
没収を科するかどうかは、裁判官の裁量によって行います(刑法19条、任意的(裁量的)没収)。
1項
次に掲げる物は、没収することができる。
1号
犯罪行為を組成した物
2号
犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
3号
犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
4号
前号に掲げる物の対価として得た物
2項
没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
もっとも、刑法各側(刑法197条の5前段)及び特別法(覚醒剤取締法41条の8第1項本文、関税法118条1項、金融商品取引法200条の2前段、酒税法54条4項、麻薬特例法11条1項など)においては、必ず没収をしなければならない必要的没収が規定されています。
このような特別規定がある場合には、一般法である刑法19条の適用は排除されますが、特別法の要件は充たさないけれども刑法19条の要件は充たす場合には、刑法19条により没収することができます。
例えば、供与の申込みをしたが収受されなかった賄賂は、「収受した賄賂」(刑法197条の5)には当たらないことから、刑法197条の5によって没収することはできませんが、賄賂申込罪(刑法198条)の組成物件として、刑法19条1項1号により没収することができます(最判昭24.12.6)。
犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
没収は原則として任意的
2 没収の対象
没収の対象となるものは、以下の4種です(刑法19条1項)。
① | 組成物件 | 犯罪行為を組成した物 (犯罪成立に不可欠なもの) |
・わいせつ物頒布等罪(刑法175条)におけるわいせつ物 ・偽造通貨行使罪(刑法148条2項)における偽造通貨 ・通貨偽造準備罪(刑法153条)における器械・原料(大判明45.4.2) ・賭博罪(刑法185条)における賭金(大判大3.4.21) ・賄賂申込罪(刑法198条)における供与の申込みをした賄賂(最判昭24.12.6) など | ||
② | 供用物件 | 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物 (実行行為と密接な関連性を有し、犯罪を促進したもの) |
・殺人に用いた凶器 ・文書偽造の用に供した偽造の印章(大判昭7.7.20) ・賭博開帳者が客に貸し付けた金銭(名古屋高金沢支判昭45.11.17) ・強盗・強制性交の様子を記録したビデオテープ(東京高判平22.6.3) ・強制わいせつ、強制性交の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセット(最決平30.6.26) など | ||
③ | 生成(産出)物件 | 犯罪行為によって生じた(作り出された)物 |
・通貨偽造罪(刑法148条1項)における偽造通貨(大判明42.4.19) ・私文書偽造罪(刑法159条)における偽造文書(大判明42.6.11) ・有価証券偽造罪(刑法162条1項)における偽造有価証券(大判明44.10.19) など | ||
取得物件 | 犯行時に既に存在した物であって、犯罪行為を手段として取得した物 | |
・鳥獣保護法に違反して捕獲した鳥獣 ・賭博に勝って得た財物(大判大13.6.25) ・有償で譲り受けた盗品等(最判昭23.11.18) など | ||
報酬物件 | 犯罪行為の報酬として得た物 | |
・殺人行為の報酬として支払われた金銭 ・堕胎の謝礼として得た金銭 ・売春業者に建物を提供した場合の家賃(最決昭40.5.20参照) など | ||
④ | 対価物件 | 生成物件・取得物件・報酬物件の対価として得た物 |
・違法に捕獲した鳥獣を売却して得た金銭 ・盗品等を売却して得た代金(最判昭23.11.18) など |
それぞれの物件が没収の対象となっているのは、以下の理由によります。
①及び② | 主として犯罪予防 |
③及び④ | 犯罪に基づく不当な利益を犯人の手許に残さない。 |
上記の物件は、有体物に限られます。
有体物には、不動産も含まれます。例えば、他人の土地上に不法に建築した家屋は、不動産侵奪罪(刑法235条の2)の供用物件として没収することができます(団藤重光編『注釈 刑法⑴ 総則⑴』有斐閣、1964年、p.131参照)。
他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。
また、主物を没収することができる場合は、従物も没収することができます。例えば、短銃を没収することができる場合は、それに装填してあった弾丸も没収することができます(大判明29.10.6)。
一方で、無形の財産権や利益は含まれません。例えば、犯人が犯罪の報酬を現金で取得した場合には、その現金は没収の対象となりますが、銀行口座への振込によって取得した場合には、振込によって得た預金債権は没収の対象とはなりません(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年、p.411参照)。

もっとも、特別法においては、無形の経済的利益等も没収することができるものとされています(組織的犯罪処罰法13条、麻薬特例法11条参照)。
なお、拘留又は科料のみに当たる罪(例えば、軽犯罪法1条各号の罪です。)については、特別の規定がなければ、組成物件を除き、没収することができません(刑法20条)。
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(以下省略)
拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第19条第1項第1号に掲げる物の没収については、この限りでない。
・没収の対象は、組成物件、供用物件、生成物件、取得物件、報酬物件、対価物件
・没収の対象は原則として有体物
3 没収の性質
没収は、刑法上は刑罰として位置付けられていますが(刑法9条、32条等)、以下のように、保安処分的な性質と刑罰的な性質という2つの性質を持っています(団藤重光編『注釈 刑法⑴ 総則⑴』有斐閣、1964年、p.127参照)。
組成・供用・生成物件 | その物が再び犯罪に使用されるおそれがある点に着目して保安的・予防的観点からその物を除去するという色彩が強い。 |
取得・報酬・対価物件 | 犯罪行為に対する道義的非難として財産的不利益を科するという趣旨が濃厚で、罰金と並んで財産刑的色彩が強い。 |
時効は、刑の言渡しが確定した後、次の期間その執行を受けないことによって完成する。
6号
拘留、科料及び没収については1年
4 没収の要件
没収の要件は、以下の2つです。
- 対象となる物件が現に存在していること
- その物が犯人以外の者に属していないこと
⑴ 対象となる物件が現に存在していること
物が存在しなくなったとき(例えば、費消・紛失・破壊など)又は物の同一性が失われたとき(例えば、混同・加工など)は、没収することは不可能となり、後述の追徴が問題となります。
⑵ その物が犯人以外の者に属していないこと
犯人が所有権を有し、かつ、犯人以外の者の物権を負担していない場合(大判明36.6.30)のほか、何人の所有にも属していない場合を含みます。
これらの権利関係は、犯行時ではなく裁判の言渡し時を基準として(大判明43.7.8)、実質的に判断されます。例えば、単に他人の名義を借用したにすぎない物は、犯人に属する物と認めることができます(東京高判昭29.5.29)。
犯人には、共犯者も含まれ(大判明44.2.13)、両罰規定によって処罰される法人・人も含まれます(最大決昭38.5.22)。これらの者は、共同被告人として同時に審判を受けていることは必要ではなく、いまだ公訴提起されていない者(大判大11.5.19)でも、既に確定判決を受けている者(大判明44.2.13)でもかまいません。
犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が(未必的にしろ)情を知って(=その物が犯罪と何らかの関係があることを知って)取得したものであるときは、これを没収することができます(刑法19条2項ただし書)。
「取得した」とは、所有権を取得した場合のほか、質権や抵当権等の物権を取得した場合を含みます。取得には、売買・譲渡等だけではなく、相続・合併等も含まれ、また、「直接犯人から取得した場合のほか、犯人から取得した者から更に転々取得した場合」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.42)も含まれます。なお、転々取得する間に情を知らない者が介在していてもかまいません。
もっとも、特別法においては、対象物件の所有者が誰であるかを問わずに没収を認めるものがあります(例えば、公選法233条、酒税法54条4項、56条2項、郵便法81条、86条2項などです。)。
ただし、最大判昭32.11.27は、旧関税法83条1項について、第三者没収(=被告人でない者に属する物の没収)をすることができるのは、第三者が犯行時から悪意であった場合に限る旨を判示しており、その趣旨からすると、対象物件の所有者が誰であるかを問わずに没収を認める旨の規定がある場合においても、第三者が悪意でなければ没収することはできないと解釈すべきことになります。
第三者没収に当たっては、告知・聴聞・防御の機会といった手続が保障されます(刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法)。
没収の要件
① 対象となる物件が現に存在していること
② その物が犯人以外の者に属していないこと
5 部分没収
没収の要件が物の一部のみについて存する場合において、没収の対象とならない部分だけでも独立の効用を有するときは、物の全部ではなく没収の要件を充たす部分のみを没収します。
例えば、金銭の借用証書において、保証人や担保に関する部分のみが偽造されたものである場合は、主たる債務の部分については有効で、金銭消費貸借契約(民法587条)の成立を証するという独立の効用を有するので、借用証書全部を没収するのではなく、保証人や担保に関する部分のみを没収することになります。

偽造・変造文書についての部分没収の裁判の執行は、検察官が、偽造又は変造の部分を朱線で表示し、裁判年月日・事件名・裁判所名及び没収の旨を付記したうえで、これにその属する検察庁の名称及び官氏名を記入・押印して、文書自体は権利者に返還するという方法で行われます(刑訴法498条1項、2項本文、証拠品事務規程41条1項)。ただし、偽造・変造文書が公務所に属するときは、偽造又は変造の部分を公務所に通知して相当な処分をさせなければならないこととされています(刑訴法498条2項ただし書)。
1項
偽造し、又は変造された物を返還する場合には、偽造又は変造の部分をその物に表示しなければならない。
2項
偽造し、又は変造された物が押収されていないときは、これを提出させて、前項に規定する手続をしなければならない。但し、その物が公務所に属するときは、偽造又は変造の部分を公務所に通知して相当な処分をさせなければならない。
偽造又は変造の部分を没収された物について、刑訴第498条第1項の規定による表示をする場合には、検察官は、偽造又は変造の部分を朱線をもって表示し、裁判年月日、事件名、裁判所名及び没収の旨を付記した上、これにその属する検察庁の名称及び官氏名を記入し、押印する。
また、文書・図画の一部がわいせつ文書・名誉毀損文書と認められる場合も、文書全体がわいせつ文書・名誉毀損文書としての性格を帯びるわけではないときは、文書・図画のうち、わいせつ物頒布等罪(刑法175条)・名誉毀損罪(刑法230条1項)を組成等した部分のみを没収することになります(団藤重光編『注釈 刑法⑴ 総則⑴』有斐閣、1964年、p.134参照)。
物の一部のみが没収の要件を充たしている場合は、その部分のみが没収され得る。
6 追 徴
追徴とは、没収すべき物が没収不能となった場合に、それに代わるべき一定の金額を国庫に納付すべきことを命ずる処分をいいます。
生成物件・取得物件・報酬物件・対価物件の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができるものとされています(刑法19条の2、任意的追徴)。
もっとも、刑法各側(刑法197条の5後段)及び特別法(関税法118条2項、金融商品取引法200条の2後段、麻薬特例法13条1項など)においては、必ず追徴をしなければならない必要的追徴が規定されています。
追徴は、刑罰ではありませんが(刑法9条参照)、没収の換刑処分的な機能を果たしています。
「没収することができないとき」とは、犯人が費消・紛失・破壊・混同・加工することによって物の同一性を失わせたこと、あるいは善意の第三者に譲渡したことなどによって、判決時において事実上又は法律上没収することができない場合をいいます。
つまり、「ある時点で没収要件を充足した物が、その後の状況・属性変化によって、裁判時に没収要件を充足しなくなった場合」(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.142)です。
例えば、殺人の報酬として債務を免除してもらったというような場合のように、一旦は没収の要件を充たしたが後に没収の要件を充たさなくなったのではなく、最初から没収することができない場合は、追徴することはできません(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年、p.15参照)。
追徴額は、没収対象であった物の「客観的に適正と認められる価額」(最判昭31.12.28)で、没収対象であった物の授受・取得後に価額が増減したとしても、それは物の授受・取得とは別個の原因に基づいて生じたものなので、その算定基準は、物の授受・取得当時の価額となります(最大判昭43.9.25)。
没収の要件を充たしていた物が、裁判時に没収することができなくなったときは、追徴され得る。
→ 最初から没収することができない場合は、追徴することはできない。
7 没収・追徴の執行
没収は、刑の言渡しを受けた者に対してのみ行うことができるのが原則ですが、刑の言渡しを受けた者が判決確定後に死亡した場合には、その相続財産に対して執行することができます(刑訴法491条)。
没収又は租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡した罰金若しくは追徴は、刑の言渡を受けた者が判決の確定した後死亡した場合には、相続財産についてこれを執行することができる。
これは、没収が刑罰としての性質だけではなく、保安処分的な性質も持っていることによります(松尾浩也監修、松本時夫・土本武司・池田修・酒巻匡編『条解 刑事訴訟法』第4版増補版、弘文堂、2016年、p.1187参照)。つまり、不正な利得を放置しないことによって、再び犯罪が行われないようにするということです。
また、法人に対して没収又は追徴を言い渡した場合において、その法人が判決確定後に合併によって消滅した場合は、合併の後存続する法人又は合併によって設立された法人に対して執行することができます(刑訴法492条)。
法人に対して罰金、科料、没収又は追徴を言い渡した場合に、その法人が判決の確定した後合併によって消滅したときは、合併の後存続する法人又は合併によって設立された法人に対して執行することができる。
これは、「合併によって刑の言渡しを受けた法人が法的には消滅するとはいえ、もともとその刑の執行を受けるべきであった法人の財産等は一切合併後の法人に包括承継される」(松尾浩也監修、松本時夫・土本武司・池田修・酒巻匡編『条解 刑事訴訟法』第4版増補版、弘文堂、2016年、p.1188)ことによります。
8 確認問題
没収については、一通り説明したので、試しに問題を解いてみましょう。
⑴ 平成24年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第20問
没収と追徴に関する次の【記述】中の①から⑧までの( )内に、後記アからシまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【記 述】
「刑法第19条により没収の対象とされているのは、例えば、犯罪を組成した物として(①)、犯罪行為の用に供した物として(②)、犯罪行為によって生じた物として(③)、犯罪によって得た物として(④)がある。同条は、任意的な没収を定めた規定であるが、刑法上、必要的没収となるものとしては、(⑤)がある。没収は、罰金、(⑥)と並ぶ財産刑の一種であり、(⑦)を言い渡す場合に付加して言い渡すことができるものである。これに対し、追徴は、没収が不能となった場合に認められる(⑧)である。」
【語句群】
ア.殺人に使用された包丁 イ.賭博に勝って得た金品
ウ.文書偽造罪における偽造文書 エ.偽造文書行使罪における偽造文書
オ.犯罪行為の報酬として得た金銭 カ.収受した賄賂 キ.過料 ク.科料
ケ.自由刑 コ.主刑 サ.換刑処分 シ.付加刑
1.①ウ ②ア ③エ ④カ ⑤オ ⑥ク ⑦ケ ⑧シ
2.①ウ ②エ ③イ ④オ ⑤ア ⑥キ ⑦コ ⑧サ
3.①エ ②ア ③ウ ④イ ⑤カ ⑥ク ⑦コ ⑧サ
4.①エ ②ア ③ウ ④オ ⑤カ ⑥ク ⑦コ ⑧シ
5.①カ ②エ ③ウ ④イ ⑤オ ⑥キ ⑦ケ ⑧シ
法務省「平成24年司法試験問題」短答式試験(刑事系科目)
⑵ 解 説
①について
①には、【記述】に「犯罪を組成した物として」と記述されているので、組成物件に該当するものが入ります。
そして、組成物件には、犯罪成立に不可欠な物、つまり、それがなければ犯罪が成立し得ないものが該当します。
そのような物件を語句群の中から探してみると、エの偽造文書行使罪における偽造文書が適当です。
なぜならば、偽造文書行使罪(刑法158条1項、161条1項)は、偽造文書を行使することによって成立する犯罪で、行使の対象となる偽造文書が存在しなければ、成立し得ないからです。
したがって、①にはエが入ります(2参照)。
②について
②には、【記述】に「犯罪行為の用に供した物として」と記述されているので、供用物件に該当するものが入ります。
そして、供用物件には、犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物、つまり、実行行為と密接な関連性を有し、犯罪を促進したものが該当します。
そのような物件を語句群の中から探してみると、アの殺人に使用された包丁が適当です。
なぜならば、包丁は、人を刺したり切り付けたりすることなどによって、自然の死期以前に人の生命を断絶させることに効果的な物なので、殺人罪(刑法199条)を促進させたものということができるからです。
したがって、②にはアが入ります(2参照)。
③について
③には、【記述】に「犯罪行為によって生じた物として」と記述されているので、生成物件に該当するものが入ります。
そして、生成物件には、犯罪行為によって生じた物、つまり、犯罪行為によって作り出された物が該当します。
そのような物件を語句群の中から探してみると、ウの文書偽造罪における偽造文書が適当です。
なぜならば、文書偽造罪(刑法154条、155条等)は、文書の作成権限のない者が他人名義を冒用して文書を作成したり、文書の作成権限のある者が内容虚偽の文書を作成することによって成立する犯罪なので、文書偽造罪における偽造文書は、文書の偽造行為を行った結果、作り出された物ということができるからです。
したがって、③にはウが入ります(2参照)。
④について
④には、【記述】に「犯罪によって得た物として」と記述されているので、取得物件に該当するものが入ります。
そして、取得物件には、犯行時に既に存在した物であって、犯罪行為を手段として取得した物が該当します。
そのような物件を語句群の中から探してみると、イの賭博に勝って得た金品が適当です。
なぜならば、賭博を行った場合には賭博罪(刑法185条、186条)が成立するので、賭博に勝って得た金品は、賭博という犯罪行為を手段として獲得した物で、かつ、その金品は賭博行為を行う時点で既に存在しているからです。
したがって、④にはイが入ります(2参照)。
⑤について
⑤には、【記述】に「刑法上、必要的没収となるものとしては」と記述されているので、刑法において「~は没収する」旨規定されているものが入ります。
そして、刑法においてそのように規定されているのは、刑法197条の5だけです。
犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
したがって、⑤にはカが入ります(1参照)。
⑥について
⑥には、【記述】に「罰金、……と並ぶ財産刑の一種」と記述されているので、罰金・没収以外の財産刑に該当するものが入ります。
そして、財産刑として刑法は、罰金・科料・没収を定めています。
したがって、⑥にはクが入ります(詳細については「こちら」を参照してください。)。
⑦について
⑦は、没収が付加刑であることの説明の一部を構成しています。
そして、付加刑とは、主刑を言い渡すときだけに、これに付加して科することのできる刑罰をいいます。
したがって、⑦にはコが入ります(詳細については「こちら」を参照してください。)。
⑧について
⑧は、追徴の意義の説明の一部を構成しています。
そして、追徴とは、没収すべき物が没収不能となった場合に、それに代わるべき一定の金額を国庫に納付すべきことを命ずる処分で、没収の換刑処分的な機能を果たしています。
したがって、⑧にはサが入ります(6参照)。
⑶ 解 答
①から⑧には、それぞれ、以下の語句が入ります。
①エ ②ア ③ウ ④イ ⑤カ ⑥ク ⑦コ ⑧サ
したがって、解答は3ということになります。
9 参考文献
- 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年
- 大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ-総論』第3版、日本評論社、2019年
- 大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年
- 団藤重光編『注釈 刑法⑴ 総則⑴』有斐閣、1964年
- 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年
- 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年
- 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年
- 松尾浩也監修、松本時夫・土本武司・池田修・酒巻匡編『条解 刑事訴訟法』第4版増補版、弘文堂、2016年