拘 留

penal_detention刑法総論
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受刑者を拘禁してその自由を剥奪する自由刑には、懲役禁錮のほかに、拘留があります。懲役や禁錮という言葉は、日々のニュースや各種のメディア等でよく耳にしたことがある人が多いとは思いますが、拘留という言葉は聞いたことがない人が多いと思います。

拘留は、懲役と禁錮と並ぶ自由刑ということからすると、犯罪者が刑務所に入るということは想像がつくとは思いますが、それ以上に懲役や禁錮とどのような違いがあるかは、拘留という言葉自体からは想像できないことと思います。

そこで、拘留とは具体的にどのような刑罰なのかについて、懲役や禁錮との違いに留意しつつ解説します。

なお、刑事訴訟においては勾留という処分がありますが、これは捜査・公判手続において被疑者・被告人の身柄を確保しておくためのもので、刑罰である拘留とは異なります。どちらも同じく「こうりゅう」と読みますが、その内容は全く異なることに注意する必要があります。

1 意 義

拘留とは、受刑者を拘禁してその自由を剥奪することを内容とする自由刑の一種で、軽微な犯罪に対して科される刑罰です。

軽微な犯罪とは、具体的には、軽犯罪法が典型です。刑法典上は、公然わいせつ罪(174条)、暴行罪(208条)、侮辱罪(231条)が、選択刑として拘留を定めています。

軽犯罪法

 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(以下省略)
2条
 前条の罪を犯した者に対しては、情状に()り、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。

刑法174条(公然わいせつ)

公然とわいせつな行為をした者は、6(げつ)以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法208条(暴行)

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法231条(侮辱)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

2 期 間

拘留には、懲役や禁錮とは異なり、無期というものはなく有期のみがあり、その期間は、1日以上30日未満です(刑法16条)。

刑法16条(拘留)

拘留は、1日以上30日未満とし、刑事施設に拘置する。

なお、情状により、行政官庁(=地方更生保護委員会)の決定によって、いつでも仮出場を許すことができます(刑法30条1項、更生保護法39条1項)。

懲役・禁錮の場合は、仮釈放といいます。

刑法30条1項(仮出場)

拘留に処せられた者は、情状により、いつでも、行政官庁の処分によって仮に出場を許すことができる。

更生保護法39条1項(仮釈放及び仮出場を許す処分)

刑法第28条の規定による仮釈放を許す処分及び同法第30条の規定による仮出場を許す処分は、地方委員会の決定をもってするものとする。

拘留の期間は1日以上30日未満

3 執行方法

刑事施設(=刑務所、少年刑務所)に拘置して執行されます(刑法16条)。

懲役とは異なり、所定の作業(=刑務作業)は課されません。ただし、受刑者が申し出た場合は、刑事施設の長は、作業を行うことを許すことができます(刑事収容施設法93条)。これを請願作業といいます。

刑事収容施設法93条(禁錮受刑者等の作業)

刑事施設の長は、禁錮受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この節において同じ。)又は拘留受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。)が刑事施設の長の指定する作業を行いたい旨の申出をした場合には、法務省令で定めるところにより、その作業を行うことを許すことができる。

4 他の自由刑との相違

自由刑としては、ほかに懲役・禁錮がありますが、それぞれ以下のような違いがあります。

  • 期 間
    無期懲役・禁錮:終身
    有期懲役・禁錮:1月以上20年以下(刑法12条1項、13条1項)
    拘留:1日以上30日未満(刑法16条)
  • 刑務作業を行う義務の有無
    懲役:あり(刑法12条2項、13条2項)
    禁錮・拘留:なし
  • 法律上の加重事由の有無
    無期懲役・禁錮:なし
    有期懲役:併合罪加重(刑法47条)、累犯加重(刑法57条、59条)
    有期禁錮:併合罪加重
    拘留:なし
  • 法律上の減軽事由がある場合
    無期懲役・禁錮:7年以上の有期の懲役・禁錮となります(刑法68条2号)。
    有期懲役・禁錮:長期及び短期の2分の1を減じます(刑法68条3号)。
    拘留:長期の2分の1を減じます(刑法68条5号)。
  • 刑の執行猶予の有無
    懲役・禁錮:あり(刑法25条1項、27条の2第1項)
    拘留:なし
  • 刑の執行猶予及び仮釈放の取消し事由となるか
    懲役・禁錮:なり得る(刑法26条1号、27条の4第1号、29条1項1号)。
    拘留:ならない。
  • 法令上の資格制限の有無
    懲役・禁錮:あり(医師法4条3号、歯科医師法4条3号など)
    拘留:なし

拘留・禁錮には刑務作業を行う義務がないが、懲役にはある。

5 併 科

拘留は、懲役や禁錮とは異なり、法律上の加重が行われることはなく、併合罪の関係にある場合は、他の罪について死刑・無期懲役・無期禁錮に処する場合を除き、他の罪の刑と併科し(刑法53条1項本文)、また、2個以上の拘留は併科します(同条2項)。

刑法53条(拘留及び科料の併科)

1項
 拘留又は科料と他の刑とは、併科する。ただし、第46条の場合は、この限りでない。
2項
 2個以上の拘留又は科料は、併科する。

刑法46条(併科の制限)

1項
 併合罪のうちの1個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。
2項
 併合罪のうちの1個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。

例えば、拘留に当たる3個の罪を犯した場合は、「被告人を第1の罪につき拘留20日に、第2の罪につき拘留20日に、第3の罪につき拘留10日にそれぞれ処する。」というような判決主文で刑が宣告されることになります。併科される拘留の合算日数に上限はありません

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拘留を併科する場合、その合算日数に上限はない。

拘留を併科する場合に、各罪に対して科する拘留の期間が1日以上30日未満であれば、その合計日数が30日以上になってもよい。

6 特 例

法定刑が拘留又は科料のみである犯罪(例えば、軽犯罪法1条各号の罪です。)の場合には、以下のような特例があります。

  • 特別の規定(例えば、軽犯罪法3条です。)がなければ、教唆者及び幇助者は処罰されません(刑法64条)。
  • 特別の規定がなければ、組成物件を除き、没収を科することはできません(刑法20条)。
軽犯罪法3条

第1条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる。

刑法64条(教唆及び幇助の処罰の制限)

拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。

刑法20条(没収の制限)

拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第19条第1項第1号に掲げる物の没収については、この限りでない。

刑法19条1項1号(没収)

 次に掲げる物は、没収することができる。
1号
 犯罪行為を組成した物

法定刑が拘留又は科料のみの犯罪は、原則として、幇助犯や教唆犯は処罰されない。

7 参考文献

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