信用毀損罪

damage_to_credibility 刑法各論
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名誉毀損罪(刑法230条1項)という言葉は、新聞・雑誌・テレビ・webサイト・SNS等のメディアなどでよく聞かれる言葉ですが、信用毀損罪(同法233条前段)という言葉になじみがある人はあまり人いないのではないでしょうか。

どちらも同じ「毀損」という言葉が使われており、最初の2文字に「名誉」と「信用」という違いがあるにすぎないので、信用毀損罪も名誉毀損罪と似たような犯罪なのではないかという予想はつくことと思います。

そこで、信用毀損罪とは具体的にどのような犯罪なのか、名誉毀損罪との違いに留意しながら解説していきます。

まずは、条文を確認します。

刑法233条前段(信用毀損及び業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し……た者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

刑法230条1項(名誉毀損)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

1 意 義

信用毀損罪を規定している刑法233条前段を見ると、信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を害する行為を処罰する犯罪ということが分かります。

2 保護法益

刑法に規定されている各犯罪は、一定の利益を守るために存在しています。したがって、刑法各論を学ぶ際には、まず最初に、各犯罪が何を守るために犯罪として刑法に規定されているのか、つまり保護法益を明らかにしておくことが大切です。なぜならば、各犯罪の保護法益をどのように捉えるかによって、各条文の文言の意味合い、つまり解釈が異なってくるからです。

では、信用毀損罪の保護法益は何なのかというと、信用で、信用とは、「経済的な側面における人の社会的な評価」(最判平15.3.11)をいいます。そして、信用には、単なる人の支払意思・能力に対する社会的な信頼だけではなく、例えば、販売・納入する商品・製品の品質、アフターサービスの良否、経営姿勢等に対する社会的な信頼も含まれます(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第12巻)、青林書院、2019年、p.83参照)

なお、名誉毀損罪の保護法益は人に対する社会的評価で、信用毀損罪とは「経済的な側面における」という部分があるかないかに違いがあります

つまり、人に対する社会的評価には、

  • 人格的側面
    例えば、「あの人は高潔な人だ」など
  • 能力的側面
    例えば、「あの人は頭のいい人だ」など
  • 家系的側面
    例えば、「あの人は家柄のいい人だ」など
  • 経済的側面
    例えば、「あの人はお金持ちだ」など

など、様々な側面がありますが、信用毀損罪は、その中でも、特に経済的な側面に着目して、これを保護するために規定された犯罪です。

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信用毀損罪は、人に対する社会的評価の中でも、特に経済的側面を保護している。

信用毀損罪の保護法益は、信用

3 主 体

信用毀損罪は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて経済的側面における人の社会的評価を低下させる行為を処罰する犯罪です。

そして、経済的側面における人の社会的評価を保護するためには、これを低下させる行為を行う者に制限を設ける理由は特にありません

したがって、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて経済的側面における人の社会的評価を低下させる行為を行った場合には、誰にでも信用毀損罪が成立し得ます。

ただし、経済的側面における人の社会的評価を低下させる行為を行う者は、自然人である個人である必要があり、法人の代表者が法人の名義を用いて経済的側面における人の社会的評価を低下させる行為を行った場合は、法人ではなく、現実に行為した代表者が処罰されます(大判昭5.6.25参照)。

これは、法人は観念的な存在で、実際に法人として活動しているのは、法人自体ではなく、自然的・物理的な存在である代表者だからです。

例えば、A株式会社の代表取締役甲が、ライバル会社のB株式会社の信用を落とそうとして、「B株式会社は、取引先に対する買掛金の支払が滞っている。」といった虚偽の内容の電子メールをA株式会社名義で作成し、これをメールリストにある多数の人に宛てて送信した場合、その行為は、A株式会社の行為として行われたものではありますが、現実に行動しているのは代表取締役である甲なので、信用毀損罪で処罰されるのは、A株式会社ではなく、甲になります。

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信用毀損罪の主体は、自然人である個人

4 客 体

信用毀損罪は、経済的側面における人の社会的評価を低下させる行為を行った者を処罰することによって信用を保護しようとする犯罪なので、信用毀損罪の客体は、人の信用ということになります。

そして、信用毀損罪の実行行為である虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて経済的側面における人に対する社会的評価を低下させる行為を行う者は、自然人でなければなりませんが、信用毀損罪の客体である人の信用にいう「人」というのは、行為者の場合と同じく、自然人でなければならないとうわけではありません。

つまり、信用毀損罪の客体である人の信用にいう「人」には、(行為者以外の)自然人だけでなく、法人(大判大2.1.27、大判昭12.3.17)やその他の団体も含まれます。これは、法人等にも経済的側面における社会的評価は存在するからです。なお、信用毀損罪で保護される団体というのは、単なる人の集合体では足りず、「実質的にみて1個の独立の組織体として社会的・経済的活動を営み、信用の帰属主体あるいは業務の遂行主体たり得る団体」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.714)である必要があります。

なお、当然のことですが、支払意思・能力を持ち得ない死者は、信用毀損罪の客体には含まれません。

信用毀損罪の被害者は、自然人のほかに法人等も含む。

5 行 為

信用毀損罪の行為は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて人の信用を毀損することです。

なお、名誉毀損罪の行為は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損することで、摘示する事実が虚偽である必要はなく、真実であってもかまわないという点で、信用毀損罪とは異なります。

⑴ 虚偽の風説の流布

ア 虚偽とは

虚偽とは、客観的な真実に反することをいいます。

全く根も葉もないことだけでなく、真実に虚偽の事実を付け加えることによって全体として虚偽性を帯びる場合や、一部に虚偽が存在する場合も含みます(高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年、p.190参照)

イ 風説とは

風説とは、うわさをいいます。うわさは、行為者自身が創造・創作したものである必要はありません。

もっとも、必ずしもうわさの形をとっている必要はなく、行為者自身の判断・評価といった形をとっていてもかまいません。

ウ 流布とは

流布とは、不特定又は(・・)多数人に伝()させることをいいます(不特定及び多数人の意義については「こちら」を参照してください。)。

「直接には特定の少数人に対して告知したばあいでも、他人の口を通じて順次それが不特定または多数の人に伝播されることを認識して行ない、その結果、不特定または多数の人に伝播されたならば、『流布』した」(団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年、p.397)ことになります(大判昭12.3.17。伝播性の理論)。

例えば、甲が自宅でA及びBに対して「あの会社は倒産寸前だ。」と言った場合において、甲の発言当時に、A及びBが後で自己の多数の友人・知人に対して対象となった会社が倒産寸前であると言い触らすことが予見されるような状態にあれば、虚偽の風説を流布したと認められ、甲に信用毀損罪が成立し得ます。

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伝播性の理論

なお、既に流布している虚偽の風説を更に広めることも、それによってより一層、人の信用を低下させる可能性があるので、信用毀損罪が成立し得ます(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第12巻)、青林書院、2019年、p.87参照)

伝播可能性があれば、流布したと認められる。

⑵ 偽 計

偽計とは、「人を欺き、あるいは人の錯誤又は不知を利用すること(山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年、p.154)をいいます。

⑶ 毀 損

毀損とは、人の信用を低下させるおそれのある状態を作り出すことをいいます。

6 結 果

信用毀損罪を規定している刑法233条前段は、信用を「毀損し……た」と規定しているので、同罪が成立するためには、実際に経済的側面における人の社会的評価が低下した結果が発生しなければならないようにも思われます。

しかし、毀損とは、人の信用を低下させるおそれのある状態を作り出すことなので、信用毀損罪が成立するためには、人の信用を毀損する行為がなされれば足り、現実に人の信用を低下させるといった結果が発生することは必要ではありません

信用毀損罪は抽象的危険犯

7 主観的要件

信用毀損罪は故意犯なので、同罪が成立するためには、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いることの認識及び人の信用を低下させるおそれのある状態を作り出すことの認識・認容といった故意があることが必要となります。

もっとも、人の信用を毀損する目的を持っている必要はありません

信用毀損罪は目的犯ではない。

8 未遂・既遂

信用毀損罪には、未遂を処罰する規定がないので、処罰されません(刑法44条)。

刑法44条(未遂罪)

未遂を罰する場合は、各本条で定める。

また、信用毀損罪は抽象的危険犯なので、虚偽の風説の流布し、又は偽計を用いて人の信用を低下させるおそれのある状態を作り出す行為を行えば、既遂に達します。

例えば、A株式会社の代表取締役甲が、ライバル会社のB株式会社の信用を落とそうとして、「B株式会社は好決算を続けているが、それは帳簿を不正に操作した結果そのように見えているだけで、実は赤字続きで経営状態は良くなく、倒産に瀕している。」という虚偽の内容の手紙を、B株式会社の取引銀行Cに宛てて郵送した場合、手紙を読んだ取引銀行Cがその内容を信じず、従前と同様の取引をB株式会社と続けた場合であっても、B株式会社には、取引銀行Cから融資の早期返済を求められるなどの経済的な不利益を受けるおそれが生じているので、甲によるB株式会社に対する信用毀損罪は、既遂に達することになります。

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信用毀損罪に未遂はない。

9 罪数・他罪との関係

⑴ 信用毀損罪の個数

信用毀損罪の保護法益は人の信用で、信用は人ごとに存在するので、被害者の数を基準として、つまり、被害者の数に応じた信用毀損罪が成立します。

例えば、1通の文書で2人の信用を毀損した場合は、2個の信用毀損罪が成立して観念的競合(刑法54条1項前段)となります(大判明45.7.23、大判明44.4.13参照)。

刑法54条1項前段(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合等の処理)

1個の行為が2個以上の罪名に触れ……るときは、その最も重い刑により処断する。

⑵ 名誉毀損罪との関係

名誉毀損罪(刑法230条)における名誉に信用毀損罪における信用は含まれないので、虚偽の風説を流布したことによって、同一人の名誉と信用を同時に害した場合は、名誉毀損罪と信用毀損罪が成立し、観念的競合となります(大判大5.6.26)。

⑶ 偽計業務妨害罪との関係

同一の行為で同一人の信用と業務を同時に害した場合は、刑法233条違反の単純一罪となります(大判昭3.7.14)。

刑法233条(信用毀損及び業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

10 確認問題

信用毀損罪については一通り説明したので、試しに問題を解いてみましょう。

⑴ 平成24年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第8問

信用毀損罪又は名誉毀損罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し、正しいものを2個選びなさい。

1.甲は、スーパーマーケットVに嫌がらせをする目的で、誰でも閲覧できるインターネット上の掲示板に「Vで買ったオレンジジュースに異物が混入していた。」旨の嘘の書き込みをした。甲には信用毀損罪は成立しない。

2.教授甲は、数百人が出席している講演会で、日頃意見の対立するV教授がX県出身であったことから、誰のことを言っているかは分からないようにしつつ、「X県人は頭が悪い。」と述べた。甲には名誉毀損罪が成立する。

3.甲は、以前交際していたV女が別の男性と婚約したことを知り、腹いせに、V女の両親に宛てて、「V女には他にも数人男がいる。V女の好色は目に余る。」などと嘘の事実を記載した手紙を匿名で郵送した。甲には名誉毀損罪は成立しない。

4.甲は、インターネット上の書き込みを信じ、特段の調査をすることなく、誰でも閲覧できるインターネット上の掲示板に「ラーメン店Vの経営母体は暴力団Xである。」旨の真実に反する書き込みをした。甲には名誉毀損罪は成立しない。

5.甲は、かつて甲をいじめたVが破産したことを知り、仕返しをするため、「Vは破産者である。」と書かれたビラを多数人に配布した。甲には信用毀損罪は成立しない。

法務省「平成24年司法試験問題」短答式試験(刑事系科目)

⑵ 解 説

1について

信用毀損罪は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて人の信用を害する行為を行った場合に成立する犯罪ですが、ここにいう信用とは、経済的側面における人の社会的評価をいい、単なる人の支払意思・能力に対する社会的な信頼だけではなく、例えば、販売・納入する商品・製品の品質、アフターサービスの良否、経営姿勢等に対する社会的な信頼も含まれます

甲は、スーパーマーケットVが販売している商品の品質に問題があるという虚偽の言説を、不特定又は多数人が閲覧することのできるインターネット上の掲示板に書き込んでいるので、甲の行為は、虚偽の風説を流布して、スーパーマーケットVの信用を害するおそれを生じさせたものといえます。

したがって、甲には、スーパーマーケットVに対する信用毀損罪が成立します。

以上から、1は正しいということになります(5⑴5⑶参照)。

2について

2は誤りです(詳細については、「こちら」を参照してください。)。

3について

3は正しいです(詳細については、「こちら」を参照してください。)。

4について

4は誤りです(詳細については、「こちら」を参照してください。)。

5について

甲は、Vは破産者であるという内容のビラを多数人に配布しているので、Vの信用を害する行為を行ったということができます。

しかし、信用毀損罪は、虚偽の風説の流布又は偽計を手段として人の信用を害する行為を行った場合に成立する犯罪です。

そして、Vが破産者であるということは真実なので、虚偽の風説を流布して人の信用を害する行為を行ったということはできません。

したがって、甲には、Vに対する信用毀損罪は成立しません。

以上から、5は正しいということになります(5⑴参照)。

⑶ 解 答

この問題の解答は、ということになります。

11 参考文献

  • 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第12巻)、青林書院、2019年
  • 大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年
  • 高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年
  • 団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年
  • 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年
  • 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年
  • 山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年
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