最大判昭23.7.14

judgment 刑法判例
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要 約

主文において何人から没収するかを明示していなくても、判文上、何人に対して没収を付加したのかが分かる場合には、理由不備の違法はない。

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人三宅正太郎上告趣意第1点について

原審は、所論「刑法の一部を改正する法律」の施行後において判決するに(あた)り、被告人の本件犯行の日時を、右法律の施行前たる昭和22年7月2日頃と認定して、刑法第55条を適用したのであるから、「この法律施行前の行為については、刑法第55条の改正規定にかかわらず、なお従前の例による」旨の前記法律附則第4項に従ったことは、おのずから明かである。有罪判決において、罪となるべき事実の認定に法令の適用を示すには、その事実に対し現に効力を有する法規の適用を示せば足りるのであって、その法規が現に効力を有する事由に関する法規にまで遡ってこれを示す必要はない。されば、論旨は理由がない。

同第2点について

原判決はその主文において、本件銀塊を何人から没収するかを明示していないことは所論のとおりであるが、その趣旨とするところは、共同被告人たる被告人等3名に対して没収を附加したこと、判文上十分認められる。されば、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第3点について

原審は、被告人の原審公判廷における供述を採用して所論の金額を認定し、この点に関する第1審公判調書記載のAの供述を排斥したものであることは、原判決の認定事実と原判決の引用した証拠の内容とを対照すれば明かである。しかのみならず、被告人がAから所論の金額を借受けたことは、本件犯罪の罪となるべき事実ではないから、これを認めた理由を証拠によって説明することは法律の要求するところではない。従ってこの点に関する論旨も理由がない。

同第4点及び第5点について

記録を調べて見ると、所論の銀地金9(かん)()は、Aが提出したものを司法警察官が証拠品として領置したこと、領置品目録と題する書面によって明かである。同書面の備考欄及び銀地金引渡書と題する書面によれば、右銀塊は札幌警察署から連合国軍政部に移管されたことは所論のとおりであるが、押収物については、所有者その他の者をしてこれを保管せしめ得ること、刑事訴訟法第164条第2項の規定するところであるから、他に移管した事実のみによって、押収の効力は消滅するものではない。そして第1審及び第2審の公判調書によれば、裁判長は公判廷で右銀塊を被告人に示して適法に証拠調べをしていることが明かであるから、右銀塊は押収物として現存したものと言わなければならない。されば、右銀塊の存在しないことを前提とする論旨はいずれも理由がない。

同第6点について

自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には被告人は有罪とされないことは憲法第38条第3項の規定するところである。被告人の自由が、当該被告人以外の者の供述その他の証拠によって、補強せられる場合には有罪の認定がなされることは論を待たない。そして、自白を補強する証拠は、それによって自白の真実であることが肯認され得るものであることを要するが、補強証拠の種類については法定の制限はない。共同被告人の供述といえども、右の要件を(そな)えるかぎり補強証拠として役立つものである。そして、共同被告人の供述が右の要件を具えるかどうかは事実審たる裁判所の自由心証によって定まる問題である。今、本件について、原判決は被告人の原審公判廷における自白の(ほか)、原審共同被告人Bの供述、第1審共同被告人Aの第1審公判調書中の供述記載及び押収に係る銀地金9貫匁の存在(この押収物が現存することは前論点において説明したとおりである)を証拠として引用しているので原判決は被告人の自白を唯一の証拠として所論の事実を認定したものではないから論旨は理由がない。

よって、裁判所法第10条第1号刑事訴訟法第446条により主文のとおり判決する。この判決は裁判官全員の一致した意見である。

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