要 約
強姦未遂の事実には、これよりも軽い強制猥褻の事実も含まれているので、強姦未遂についての告訴は、強制猥褻についての告訴としても効力を有する。
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
弁護人白川千代治の控訴趣意は別紙に記載の通りである。
本件記録を精査し総べての証拠を検討するに、
一 強姦未遂の告訴中には之より軽い強制猥褻の事実は当然包含せられている。従って強姦未遂の告訴があった場合裁判所は被告訴人には姦淫の意思なく単に暴行を以って告訴人に対し猥褻行為した事実であると判定してこれを強制猥褻罪に間擬しても不法ではない。
一 原判決挙示の証拠によれば、昭和25年4月20日午前10時過ぎ頃高松市a町飲食店AことA方奥三畳間で、出前を持って来た飲食店Bの雇女C(当時17才)をDが同室内に引張り込んで倒し同女の頭部に布団を覆せて押え附け、同女の着物が乱れて同女の大腿部が露出したため被告人その他その場に居た共犯者達は愈々色情を動かし、被告人はEと共同して同女のズロースを引き脱がした原判示事実が認められるのであって、右被告人の所為は強制猥褻行為の既遂を以って論ずべきで、その未遂又は幇助に過ぎないものではない。
一 仮に犯罪の被害者がその犯人を宥恕し又は犯人と私和をなし、同人に対し告訴権不行使の意思表示をしたとしても、被害者はその告訴権を失うものではない。本件についての被害者Cの告訴取下書が本件の公訴提起後提出されて本件記録に綴られているが、告訴の取消は公訴提起後には許されないところであるから、何等法律上の効果を発生しない。
論旨はいずれも理由がない。
その他職権で調査するも刑事訴訟法第377条乃至第383条に規定する事由が認められないから同法第396条により本件控訴を棄却する。
よって主文の通り判決する。