判 例

刑法判例

最判昭53.6.29(長田電報局事件) 昭和51年(あ)第310号:公務執行妨害 刑集32巻4号816頁

① 公務執行妨害罪にいう職務には、広く公務員が取り扱う各種各様の事務の全てが含まれる。② 職務の性質によっては、その内容・職務執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始・終了を論ずることが不自然かつ不可能であって、ある程度継続した一連の職務として把握することが相当と考えられるものがあり、そのような職務の各執行が事実上一時的に中断したとしても、その状態が被告人の不法な目的を持った行動によって作出されたものである場合には、職務の執行は終了したものということはできない。③ 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識があるというためには、行為者において公務員が職務行為の執行に当たっていることの認識があれば足り、具体的にいかなる内容の職務の執行中であるかまで認識することを要しない。
刑法判例

最大判昭43.9.25 昭和41年(あ)第1257号:収賄、加重収賄、有印虚偽公文書作成、同行使 刑集22巻9号871頁

追徴額の算定基準は、没収対象であった物の授受・取得後に価額が増減したとしても、それは物の授受・取得とは別個の原因に基づいて生じたものなので、物の授受・取得当時の価額となる。
刑法判例

最決平22.3.15 平成21年(あ)第360号:名誉毀損被告事件 刑集64巻2号1頁

行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らして相当の理由があると認められるときに名誉毀損罪が成立しないことは、インターネットの個人利用者による表現行為の場合であっても、他の表現手段を利用した場合と同様であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
刑法判例

最決昭43.1.18 昭和42年(あ)第361号:名誉毀損、私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使 刑集22巻1号7頁

うわさの形で人の名誉を毀損する行為がなされた場合において、真実性の証明による免責(刑法230条の2)がなされるための証明の対象は、風評の存在自体ではなく、その内容をなす事実の存在である。
刑法判例

最判平15.3.11 平成14年(あ)第1198号:信用毀損、業務妨害、窃盗被告事件 刑集57巻3号293頁

信用毀損罪(刑法233条前段)の保護法益である信用は、経済的側面における人の社会的評価をいい、これには、人の支払意思又は能力のほか、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。
刑法判例

最判昭41.6.23 昭和37年(オ)第815号:名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求 民集20巻5号1118頁

民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性を欠き、不法行為は成立しない。もし、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、故意若しくは過失がなく、不法行為は成立しない。衆議院議員選挙の立候補者の前科等に係る事実は、公共の利害に関する事実に当たる。
憲法判例

最判昭56.4.14(前科照会事件) 昭和52年(オ)第323号:損害賠償等 民集35巻3号620頁

前科及び犯罪経歴は人の名誉・信用に直接関わる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する一方で、前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるが、弁護士法の規定に基づく弁護士会からの照会に漫然と応じて犯罪の種類・軽重を問わず、前科等の全てを報告することは、公権力の違法な行使に当たる。
憲法判例

最判平6.2.8(ノンフィクション「逆転」事件) 平成1年(オ)第1649号:慰藉料 民集48巻2号149頁

ある者が刑事事件について公訴提起されて有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接に関わる事項であるから、その者は、みだりに前科等に関わる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有し、また、有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるので、その者は、前科等に関わる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。
憲法判例

最大決昭44.11.26(博多駅テレビフィルム提出命令事件) 昭和44年(し)第68号:取材フィルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告 刑集23巻11号1490頁

報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値する。報道機関の取材フィルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重及び取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するに当たっての必要性の有無を考慮するとともに、これによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度を超えないように配慮されなければならない。
憲法判例

最判昭56.4.16(月刊ペン事件) 昭和55年(あ)第273号:名誉毀損 刑集35巻3号84頁

私人の私生活上の行状であっても、その携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たり得る。「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであって、摘示された事実の公共性の有無の判断を左右するものではない。