要 約
裁判が迅速を欠き憲法37条1項に違反したとしても、それが判決に影響を及ぼさないことは明らかであるから、上告の理由とすることができない。
公判廷における自白は、憲法38条3項の自白に含まれない。
主 文
本件各上告を棄却する。
被告人Aに対し当審の未決勾留日数中30日を本刑に算入する。
理 由
被告人等3名の弁護人稲本錠之助の上告趣意第1点について
本件記録によると、被告人等3名は共謀の上、昭和22年12月14日午前11時頃神奈川県a所在B兵舎内で、連合国占領軍将兵所有の現金900円外雑品20数点を窃取したという事実について、昭和22年12月24日東京地方裁判所へ起訴され翌23年2月9日公判の審理が行われて即日有罪の判決を言渡され、同月10日及び13日東京高等裁判所え控訴を申立て、同年6月30日控訴公判の審理を受け、同年7月9日第1審と同様に有罪の控訴判決を言渡されたことが明らかであるから、本件の審理については、公訴の提起から第2審判決の言渡まで約6箇月半を費している。その間裁判所の審理自体は、比較的順調に進行しているのであるが、第1審の判決言渡後控訴審の第1回公判期日までに、約5箇月を要している。これは、公知のごとく刑事事件の輻輳と裁判所職員の手不足等による上訴記録の整理及び送致の遅延に基因するものと推知されるが、これがために本件の審理裁判が迅速を欠いたかの嫌いを生ぜしめている。もっとも、本件の裁判が、裁判の迅速を保障する憲法第37条第1項に違反するかしないかは、更に諸般の事情を究明した上でなければ、にわかに断定することができない。ところで、いま、本件の裁判が迅速を欠き憲法の条規に違反したものと仮定して、その結果はどうなるであろうか。裁判の遅延が担当裁判官の責に帰すべき事由による場合には、その裁判官は、司法行政上その他の責を問われることのあるべきことは当然であろう。しかし、裁判に迅速を欠いた違法があるからといって、第2審判決を破棄すべきものとすれば、差戻すの外はない。しかし、そうしたならば、裁判の進行は更に一層阻害されて、憲法の保障はいよいよ裏切られる矛盾を生ずるであろう。それ故裁判が迅速を欠き憲法第37条第1項に違反したとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、上告の理由とすることができないものと解さなければならない。されば、論旨は採用することができない。
同第2点について
裁判所が証拠に引用した被告人の自白が、その裁判所の公判廷における自白であるならば、それは憲法第38条第3項の自白に含まれないことは、当裁判所の判例として示したところである。(昭和23年(れ)第168号事件、同年7月29日言渡大法廷判決)されば、論旨は採用することができない。
以上第1点については、裁判官全員の一致した意見によるものであり、第2点については、裁判官齋藤悠輔の補足意見、裁判官塚崎直義、同沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂の各少数意見を除き、その他の裁判官一致の意見によるものであって、右の補足意見及び各少数意見は、前記引用の大法廷判決に記載されたところと同一である。
よって、刑事訴訟法第446条に従い、なお被告人Aに対しては、刑法第21条により当審における未決勾留日数中30日を本刑に通算して、本文のとおり判決する。