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1 意 義
罰金とは、犯罪者から財産的利益を剝奪することを内容とする財産刑の一種で、一定額の金銭を国庫に納付させる刑罰です。
2 罰金の額
罰金の額は、1万円以上で(刑法15条本文)、上限はありません。
罰金は、1万円以上とする。
ただし、刑法、暴力行為等処罰法及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外に関する罪(条例の罪を除く。)について定めた罰金については、
多額(=上限の額)<2万円 → 多額=2万円
寡額(=下限の額)<1万円 → 寡額=1万円
とすることとされています(罰金等臨時措置法2条1項本文)。ただし、罰金の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は除きます(同項ただし書)。
もっとも、一定の金額に倍数を乗じて算出された罰金の額が1万円に満たない場合は、罰金額は1万円となります(罰金等臨時措置法2条2項)。
また、法律で命令に罰金の罰則を設けることを委任している場合において、その委任に基づいて規定することができる罰金額の最高限度が2万円に満たないときは、これを2万円とするとされています(同法3条)。
1項
刑法(明治40年法律第45号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪(条例の罪を除く。)につき定めた罰金については、その多額が2万円に満たないときはこれを2万円とし、その寡額が1万円に満たないときはこれを1万円とする。ただし、罰金の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は、この限りでない。
2項
前項ただし書の場合において、その罰金の額が1万円に満たないときは、これを1万円とする。
法律で命令に罰金の罰則を設けることを委任している場合において、その委任に基づいて規定することができる罰金額の最高限度が2万円に満たないときは、これを2万円とする。
例えば、クリーニング業法では、クリーニング取次サービスを営業する場合には、厚生労働省令の定めるところにより、営業方法・従業者数その他必要な事項をあらかじめ都道府県知事に届け出なければなりませんが(クリーニング業法5条2項)、届出をせずにクリーニング取次サービスを営業した場合は、5,000円以下の罰金に処することとされています(同法15条1号)。しかし、クリーニング業法は、刑法・暴力行為等処罰法及び経済関係罰則の整備に関する法律以外の法律なので、罰金等臨時措置法2条1項により、2万円以下の罰金に処せられることになります。
クリーニング所を開設しないで洗濯物の受取及び引渡しをすることを営業としようとする者は、厚生労働省令の定めるところにより、営業方法、従事者数その他必要な事項をあらかじめ都道府県知事に届け出なければならない。
次の各号の一に該当する者は、5,000円以下の罰金に処する。
1号
第5条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
罰金の額は1万円以上で、上限はない。
3 科料との相違
一定額の金銭を国庫に納付させる刑罰としては、罰金のほかに科料がありますが、それぞれ、以下のような違いがあります。
- 国庫に納付する金銭の額
罰金:1万円以上(刑法15条本文)
科料:1,000円以上1万円未満(同法17条) - 法律上の減軽がある場合
罰金:多額及び寡額の2分の1を減じる(同法68条4号)。
科料:多額の2分の1を減じる(同法68条6号)。 - 刑の執行猶予の有無
罰金:あり(同法25条1項)
科料:なし - 刑の執行猶予及び仮釈放の取消し事由となるか
罰金:なり得る(同法26条の2第1号、27条の5第1号、29条1項1号)。
科料:ならない。 - 法令上の資格制限の有無
罰金:あり(医師法4条3号、歯科医師法4条3号など)
科料:なし
罰金と科料とは、国庫に納付する金銭の額が異なる。
4 罰金の執行
罰金の執行は、検察官の命令によって行われ(刑訴法490条1項)、罰金の支払がなされない場合は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によって、強制執行を行うことができます(同条2項)。
資力がなく、罰金を完納することができない場合には、以下の期間、労役場に留置されます(労役場留置)。
- 罰金が単一で科される場合
1日以上2年以下(刑法18条1項) - 罰金が併科される場合
3年以下(同条3項前段前半) - 罰金と科料が併科される場合
3年以下(同条3項前段後半)
なお、本人に罰金を納付する時間的余裕を与えるため、裁判が確定した後、30日を経過しなければ、本人の承諾なく労役場留置の執行をすることはできません(刑法18条5項)。
罰金については裁判が確定した後30日以内、科料については裁判が確定した後10日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
資力がある場合は、強制執行がなされ、労役場留置を行うことはできません。
なお、罰金も刑罰である以上、一身専属性を有する(=その人にのみ効力を有する)ので、刑の言渡しを受けた者が判決確定後に死亡した場合は、その相続財産に執行することはできません。
ただし、租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡した罰金は、相続財産に対しても執行することができます(刑訴法491条)。
没収又は租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡した罰金若しくは追徴は、刑の言渡を受けた者が判決の確定した後死亡した場合には、相続財産についてこれを執行することができる。
また、法人に対して罰金を言い渡した場合に、その法人が判決確定後に合併によって消滅したときは、合併後に存続する法人又は合併によって設立された法人に対して執行することができます(刑訴法492条)。
法人に対して罰金、科料、没収又は追徴を言い渡した場合に、その法人が判決の確定した後合併によって消滅したときは、合併の後存続する法人又は合併によって設立された法人に対して執行することができる。
・資力があって罰金を完納することができないときは、強制執行される。
・資力がなくて罰金を完納することができないときは、労役場に留置される。
⑴ 罰金が併科される場合
罰金が併科される場合は、労役場留置の期間は3年を超えることができません。
罰金が併科される場合とは、「数個の罰金を同時に科した場合」(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年、p.396)をいいます。
この場合、それぞれの罰金ごとの留置期間が2年を超えてはならないとともに、併科された各刑の留置期間の合計が3年を超えてはなりません(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.104参照)。
例えば、
「被告人を第1の罪について罰金200万円に、第2の罪について罰金250万円に、第3の罪について罰金300万円に処する。右の各罰金を完納することができないときは、金4,000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」
という判決は、
- 第1の罪の労役場留置期間
200万円÷4,000円=500(日) - 第2の罪の労役場留置期間
250万円÷4,000円=625(日) - 第3の罪の労役場留置期間
300万円÷4,000円=750(日) - 第1の罪から第3の罪の労役場留置期間の合計
500日+625日+750日=1,875日
となり、第3の罪の労役場留置期間が2年(=730日)を超えている点で、また、全体として3年(=1,095日)を超えている点でも刑法18条3項前段前半に違反することとなります(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年、p.396参照)。
罰金が併科される場合の労役場留置期間は、
・それぞれの罰金ごとの留置期間<=2年
かつ
・併科された各刑の留置期間の合計<=3年
でなければならない。
⑵ 罰金と科料が併科される場合
罰金と科料が併科される場合は、労役場留置の期間は3年を超えることができません。
罰金と科料が併科される場合とは、刑法53条1項による場合をいいます。
拘留又は科料と他の刑とは、併科する。ただし、第46条の場合は、この限りでない。
刑法53条1項と同法46条を併せて見ると、「科料は、死刑には併科されず、無期の懲役及び禁錮、罰金並びに拘留と併科される」(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第4巻)、青林書院、2013年、p.293)ことになります。つまり、科料は、併合罪のうちの1個の罪について死刑に処するときを除いて、罰金と併科することができます。
したがって、刑法53条1項による場合とは、併合罪の関係に立つ他の罪ついて死刑に処することなく、罰金と科料が併科される場合をいいます。
この場合、罰金と科料は別々に主文に表示して言い渡され、罰金の留置期間は2年を、科料の留置期間は30日を超えてはならない(刑法18条2項)とともに、併科された各刑の留置期間の全体が3年を超えてはなりません(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年、p.396参照)。
科料を完納することができない者は、1日以上30日以下の期間、労役場に留置する。
罰金と科料が併科される場合の労役場留置期間は、
・それぞれの罰金ごとの留置期間<=2年
かつ
・それぞれの科料ごとの留置期間<=30日
かつ
・併科された各刑の留置期間の合計<=3年
でなければならない。
⑶ 罰金の一部が納付された場合
罰金の一部が国庫に納付された場合には、留置期間は、以下の計算式により算出された日数となります(刑法18条6項)。
(罰金の額-納付額)÷留置1日当たりの金額
上記の計算の結果、端数が生じた場合は、これを1日とします(同項かっこ書)。
罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置1日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に1日未満の端数を生じるときは、これを1日とする。)とする。
労役場留置期間の計算において、端数は1日とする。
5 言渡しの方法
罰金の言渡しをする場合には、
「被告人を罰金○○円に処する。ただし、右罰金を完納することができないときは、金△△円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」
というように、罰金の言渡しとともに、罰金を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければなりません(刑法18条4項)。
罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
留置1日当たりの金額の決定方法については特に決まりはなく、留置の期間は法律に定められた期間の範囲内で裁判所が自由に決定します。
なお、少年(=20歳未満の者(少年法2条1項))に対しては労役場留置の言渡しをすることはできません(同法54条)。
この法律において「少年」とは、20歳に満たない者をいう。
少年に対しては、労役場留置の言渡をしない。
罰金の言渡しをする場合は、労役場留置期間も言い渡さなければならない。
6 確認問題
平成18年度 新司法試験 短答式試験 刑事系科目 第10問
- 詳細については「こちら」を参照してください。
7 参考文献
- 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年
- 大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年
- 団藤重光編『注釈 刑法⑴ 総則⑴』有斐閣、1964年
- 団藤重光編『注釈 刑法⑵-Ⅱ 総則⑶』有斐閣、1969年
- 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年
- 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年