最決平4.11.27 平成4年(あ)第267号:威力業務妨害 刑集46巻8号623頁

judgment 刑法判例
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要 約

被害者の事務机引き出し内に赤く染めた猫の死がいを入れておくなどして、被害者にこれを発見させ、畏怖させるに足りる状態におく行為は、威力業務妨害罪(刑法234条)の「威力」に当たる。

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人浦功、同山田隆夫の上告趣意のうち、憲法38条2項※1違反をいう点は、記録を調べても、被告人の自白の任意性を疑うに足りる証跡は認められないから、所論は前提を欠き、憲法31条※2違反をいう点は、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、刑法234条※3にいう「威力ヲ用ヒ」に関して判例違反をいう点は、所論引用の各判例は所論のような趣旨まで判示してはいないから、所論は前提を欠き、同条にいう「業務」に関して判例違反をいう点は、所論引用の各判例は本件と事案を異にし適切でなく、その()の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、弁護人鷹取重信の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件と事案を異にし適切でなく、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条※4の上告理由に当たらない。

なお、原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば、被告人は、部下の消防署職員と共謀の上、町消防本部消防長の業務を妨害しようと企て、ひそかに、消防本部消防長室にある同人のロッカー内の作業服ポケットに犬のふんを、事務机中央引き出し内にマーキュロクロム液で赤く染めた猫の死がいをそれぞれ入れておき、翌朝執務のため消防長室に入った消防長をして、右犬のふん及び猫の死がいを順次発見させ、よって恐怖感や嫌悪感を抱かせて同人を畏怖させ、当日の朝行われる予定であった部下職員からの報告の受理、各種決裁事務の執務を不可能にさせたというのである。右のように、被害者が執務に際して目にすることが予想される場所に猫の死がいなどを入れておき、被害者にこれを発見させ、畏怖させるに足りる状態においた一連の行為は、被害者の行為を利用する形態でその意思を制圧するような勢力を用いたものということができるから、形法234条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合に当たると解するのが相当であり、被告人の本件行為につき威力業務妨害罪が成立するとした第1審判決を是認した原判断は、正当である。

よって、刑訴法414条※5、386条1項3号※6により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。


※1 憲法38条2項
 強制、(ごう)問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
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※2 憲法31条
 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
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※3 刑法234条(平成7年改正前)
 威力を用い人の業務を妨害したる者(また)前条の例に同じ
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※4 刑訴法405条
 高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の(もうし)(たて)をすることができる。
1号
 憲法の違反があること又は憲法の解釈に(あやまり)があること。
2号
 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
3号
 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
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※5 刑訴法414条
 前章の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、上告の審判についてこれを準用する。
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※6 刑訴法386条1項3号
 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。
3号
 控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第377条乃至(ないし)第382条及び第383条に規定する事由に該当しないとき。
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