最決昭59.3.23 昭和57年(あ)第987号:威力業務妨害 刑集38巻5号2030頁

judgment 刑法判例
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要 約

弁護士からその業務にとって重要な書類が在中するかばんを(だっ)(しゅ)して隠(とく)する行為は、刑法234条にいう「威力を用い」た場合に当たる。

主 文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理 由

被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であり、弁護人田中清治の上告趣意は、憲法31条※1違反をいう点を含め、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴法405条※2の上告理由にあたらない。

なお、原判決の是認する第1審判決によれば、被告人は、弁護士である被害者の勤務する弁護士事務所において、同人が携行する訟廷日誌、訴訟記録等在中の(かばん)を奪い取り、これを2か月余りの間自宅に隠匿し、同人の弁護士活動を困難にさせたというのである。右のように、弁護士業務にとって重要な書類が在中する鞄を奪取し隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものということができるから、刑法234条※3にいう「威力ヲ用ヒ」た場合にあたり、被告人の本件所為につき、威力業務妨害罪が成立するとした第1審判決を是認した原判断は、正当である。

よって、刑訴法414条※4、386条1項3号※5、181条1項本文※6により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。


※1 憲法31条
 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
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※2 刑訴法405条
 高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の(もうし)(たて)をすることができる。
1号
 憲法の違反があること又は憲法の解釈に(あやまり)があること。
2号
 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
3号
 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
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※3 刑法234条(平成7年改正前)
威力を用い人の業務を妨害したる者(また)前条の例に同じ
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※4 刑訴法414条
 前章の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、上告の審判についてこれを準用する。
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※5 刑訴法386条1項3号
 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。
3号
 控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第377条乃至(ないし)第382条及び第383条に規定する事由に該当しないとき。
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※6 刑訴法181条1項本文
 刑の(いい)(わたし)をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。
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