要 約
没収物件が、刑法19条1項各号のいずれに該当するかは、その刑が科せられるべき罪質によって定まるので、通貨偽造準備のために供した物件は、通貨偽造準備罪に問擬される場合は組成物件として刑法19条1項1号に該当するが、偽造通貨行使罪に問擬される場合は、通貨偽造準備罪は偽造通貨行使罪に包含されるので、供用物件として刑法19条1項2号に該当する。
上告理由
辯護人安達元之助上告趣意書原判決は被告が通貨を僞造したる事実を認定し其刑の適用に於て押收物中の證第1號の鑪第2號の鉛第5号鋳型以て何れも犯罪行為を組成する物件なりとし刑法第19條第1項第1號※1第20條※2により之を沒收せられたり然れども刑法第19條第1項第1號に於ける犯罪行爲を組成する物件とは所謂罪體則ち犯罪行爲の要素たるものを指稱するものにして本件に於ては僞造せられたる通貨そのものに外ならざるなり而して前記各證に於ける鑪、鉛、鋳型の如きは何れも犯罪行爲の實行手段に供せられたる一種の器械に外ならざるを以て其性質刑法第19條第1項第2號※1の犯罪供用の物件に該當するものなるに拘わらず原判決が同條第1項第1號を適用して之を沒收したるは擬律の錯誤あるものと信ず
判決理由
沒收物件が刑法第19條第1項各號の何れに該當するやは其刑の科せらるべき犯罪の性質如何に因りて定まるべきものなりとす所論押收に係る鑪、鉛、鋳型の如き被告の行為が刑法第153條※3の犯罪に問擬せらるべき場合に在りては或は同條僞造準備の目的物として同法第19條第1項第1號に該當すべきも本件の如く通貨僞造行使の行爲を罪として處断する場合に在りては刑法第153條の僞造準備の行爲は通貨僞造罪に包含して處罰せらるべきものにして特に罪として論ずべきものにあらざれば以上の押收物件は現に所罰せらるべき通貨僞造罪に従い其性質を定め刑法第19條第1項第2號に依り犯罪の用に供し又供せんとしたるものとして沒收すべきを妥當とす然れば原院が茲に出でず特に犯罪を組成したる物件として沒收すべきものと判示したるは當を得たりと云うべからず然れども刑法第19條は沒収物件の何たるを列擧し其一に該當する物件なる以上は之を沒收するを得べきものと爲せるが故に原院が同條を適用し前示物件を沒收するに當り偶々其物件の性質に關し観察を誤りたりとするも該物件は前説示の如く元来同條に従い沒收し得べきものたることを失わざるを以て原院の右見解の誤謬は同條の適用の當否に影響せざるものとして原判決を破毀すべき瑕瑾と爲すに足らず結局本論旨は理由なきに歸す
※1 刑法19条1項(平成7年改正前)
左に記載したる物は之を没収することを得
1号
犯罪行為を組成したる物
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2号
犯罪行為に供し又は供せんとしたる物
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※2 刑法20条(昭和22年改正前)
拘留又は科料のみに該る罪に付ては特別の規定あるに非ざれば没収を科することを得ず但前条第1項第1号に記載したる物の没収は此限に在らず
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※3 刑法153条(平成7年改正前)
貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的を以て器械又は原料を準備したる者は3月以上5年以下の懲役に処す
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