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1 意 義
懲役とは、受刑者を拘禁してその自由を剥奪することを内容とする自由刑の一種です。
2 期 間
懲役には、無期と有期があります。
⑴ 無 期
無期とは、刑期を定めないという意味ではなく、「終生ないし終身という期限がある」(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年、p.357)と解されています。
ただし、懲役に処せられた者に改悛の状があるときは、10年経過後において、行政官庁(=地方更生保護委員会)の決定により仮釈放が許されることになっており(刑法28条、更生保護法39条1項)、おおむね30年を経過した頃に仮釈放が認められる場合が多くなっています(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年、p.13参照)。
懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の3分の1を、無期刑については10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
刑法第28条の規定による仮釈放を許す処分及び同法第30条の規定による仮出場を許す処分は、地方委員会の決定をもってするものとする。
したがって、実際の運用としては、終身刑とは異なります。
なお、無期の懲役を減軽して有期の懲役とするときは、長期は30年となり(刑法14条1項)、短期は7年となります(同法68条2号)。
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を30年とする。
法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
2号
無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
無期の懲役を減軽して有期の懲役とするときは、その期間は、7年以上30年以下となる。
⑵ 有 期
有期は、1月以上20年以下です(刑法12条1項)。
懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
例えば、法定刑が「10年以下の懲役」や「5年以上の有期懲役」と定められている場合は、正確には、それぞれ「1月以上10年以下の懲役」、「5年以上20年以下の懲役」となります。
刑を加重する場合には長期を30年にまで上げることができ、減軽する場合には長期及び短期の2分の1を減じ、この場合、短期を1月未満に下げることができます(同法14条2項、68条1項3号)。
有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては30年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては1月未満に下げることができる。
法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
3号
有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
なお、懲役に処せられた者に改悛の情があるときは、刑期の3分の1を経過した後において、行政官庁(=地方更生保護委員会)の決定により仮釈放が許されることになっており(同法28条、更生保護法39条1項)、おおむね刑期の80%を経過した頃に仮釈放が認められる場合が多くなっています(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年、p.13参照)。
有期の懲役は1月以上20年以下
3 執行方法
刑事施設(=刑務所、少年刑務所)に拘置して執行され、所定の作業(=刑務作業)が課されます(刑法12条2項、少年法56条1項)。
懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年(第3項の規定により少年院において刑の執行を受ける者を除く。)に対しては、特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において、その刑を執行する。
なお、16歳未満の少年が懲役の実刑を言い渡された場合は、16歳に達するまでの間、刑事施設ではなく少年院に収容して懲役の刑を執行することができます。その場合は、刑務作業は課されず、矯正教育がなされます(少年法56条3項)。
懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては、刑法第12条第2項又は第13条第2項の規定にかかわらず、16歳に達するまでの間、少年院において、その刑を執行することができる。この場合において、その少年には、矯正教育を授ける。
刑務作業に対しては、作業報奨金が原則として釈放時に支給されます(刑事収容施設法98条1項)。
刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする。
刑務作業は、「受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施する」(同法94条1項)、改善更生・社会復帰のための矯正処遇の1つです。
作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施するものとする。
したがって、作業報奨金は、受刑者の勤労意欲の促進を図り、かつ、釈放後の更生資金に充てさせることを目的として、国家が報奨として支給するものであって、労働に対する対価としての賃金ではありません(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.79参照)。
作業報奨金は賃金ではない。
4 他の自由刑との相違
自由刑としては、懲役のほかに禁錮・拘留がありますが、それぞれ以下のような違いがあります。
- 期 間
無期懲役・禁錮:終身
有期懲役・禁錮:1月以上20年以下(刑法12条1項、13条1項)
拘留:1日以上30日未満(刑法16条) - 刑務作業を行う義務の有無
懲役:あり(刑法12条2項)
禁錮・拘留:なし(受刑者が申し出た場合は、刑事施設の長は、作業を行うことを許すことができます(刑事収容施設法93条)。これを請願作業といいます。) - 法律上の加重事由の有無
無期懲役・禁錮:なし
有期懲役:併合罪加重(刑法47条)、累犯加重(刑法57条、59条)
有期禁錮:併合罪加重
拘留:なし - 法律上の減軽事由がある場合
無期懲役・禁錮:7年以上の有期(長期は30年(刑法14条1項))の懲役・禁錮となります(刑法68条2号)。
有期懲役・禁錮:長期及び短期の2分の1を減じます(刑法68条3号)。
拘留:長期の2分の1を減じます(刑法68条5号)。 - 刑の執行猶予の有無
懲役・禁錮:あり(刑法25条1項、27条の2第1項)
拘留:なし - 刑の執行猶予及び仮釈放の取消し事由となるか
懲役・禁錮:なり得る(刑法26条1号、27条の4第1号、29条1項1号)。
拘留:ならない。 - 法令上の資格制限の有無
懲役・禁錮:あり(医師法4条3号、歯科医師法4条3号など)
拘留:なし
懲役には刑務作業を行う義務があるが、禁錮・拘留にはない。
5 確認問題
⑴ 平成25年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第9問
- 詳細については「こちら」を参照してください。
⑵ 平成21年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第18問
- 詳細については「こちら」を参照してください。
⑶ 平成18年度 新司法試験 短答式試験 刑事系科目 第10問
- 詳細については「こちら」を参照してください。
6 参考文献
- 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第1巻)、青林書院、2015年
- 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年
- 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年