要 約
憲法37条3項の弁護人依頼権は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所・検察官等は、被告人がこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければよく、弁護人を依頼する方法や費用等についてまで説示する必要はない。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人堀内宗治の上告趣意は末尾添附別紙記載のとおりでありこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。
第1点について
(イ) 裁判が迅速を欠いたかどうかということは場合によっては係官の責任の問題を生ずるかも知れないけれども、そのため判決破毀の理由となるものではないこと当裁判所の判例とするところである(昭和23年(れ)第1071号事件昭和23年12月22日大法廷言渡判決)又法は憲法第37条の所論権利を与へたことを記録に明記する義務を裁判所に負わせているものではないから論旨は理由がない。
(ロ) 所論憲法上の権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所、検察官等は被告人がこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければいいのである、記録を精査すると被告人は逮捕された日(昭和22年9月30日)に司法警察官の訊問を受けその際「今回の事件で弁護人を選任することができる」旨を告げられており更に同年10月2日附検事の訊問調書に論旨摘録の如き問答があるばかりでなく、判事の勾留訊問の際にも弁護人を選任し得ることが告げられている、されば被告人は逮捕直後勾留前に弁護人を依頼する機会を十分与えられたことを認むるに足り裁判所がこれを妨げた事実は毫も認められないし、被告人から国選弁護人選任の請求があった事跡もない、しかして法は所論のようなことを特に被告人に告げる義務を裁判所に負わせているものではないから原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
(ハ) 憲法第37条第2項は所論のような告知義務を裁判所に負わせているものではないから論旨は理由がない。
第2点について
記録中の論旨指摘の個所には淡くはあるが契印がある。又法は加除の場所の外になお欄外加除字数記載の場所にまで認印することを要求してはいない、従って論旨は理由がない。
第3点について
執行猶予を言渡すか否かは事実審裁判所の裁量の範囲に属するものである、論旨は結局原審が適法に為した刑の量定を非難するに帰し上告適法の理由とならない。
よって上告を理由なしとし旧刑事訴訟法第446条に従って主文の如く判決する。
以上は裁判官全員の意見である。