最判昭28.12.15 昭和27年(あ)第3760号:名誉毀損 刑集7巻12号2436頁

judgment 刑法判例
この記事は約3分で読めます。
Sponsored Link
Sponsored Link

要 約

相手方の氏名を明示しなくても、誰に対するものなのかが容易に分かる場合には、名誉毀損罪(刑法230条1項)の被害者の特定に欠けるところはない。

公務と全く関係のない事実は、公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実(刑法230条の2第3項)に当たらない。

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人松村常太郎の上告趣意は末尾添付のとおりである。

趣意第1点について

所論は法令違反の主張であって刑訴405条※1の上告理由に当らない。(本件記事は論旨のいうとおり被害者の氏名こそ明示してないが、第1審判決挙示の証拠を(そう)合するとそれがAに関して為されたものであることが容易にわかる場合であることが認められる。だから該記事は被害者の特定に欠くるところはないというべきである。また記録を調べても、被害者の朝令暮改的な政治的無節操振りが真実であるとの証明があったものとは認められない。仮りにその証明があったとしても、これを結びつけて、ことさらに「肉体的の片手落は精神的の片手落に通ずるとか、ヌエ的町議がある。」等と(およ)そ公務と何等の関係のないことを執筆掲載することは身体的不具者である被害者を公然と()(ぼう)するものであると()うべきである。

従って本件につき名誉毀損罪の成立を認めた原判決は正当であって、論旨は採るを得ない。

趣意第2点について

しかし、本件は、被告人が被害者の政治的無節操振りを、ことさらに身体的な不具の事実と結びつけて誹謗した場合であると認められること、既に、論旨第1点につき説示したとおりである。そして原判決も本件を、被告人が専ら公益上の立場から抽象的に、公人としての態度に警告を加えたに止まるものと判断しているのでないことはその判文上明らかである。従って所論違憲の主張は前提を欠くものであって採用の限りでない。

なお記録を精査するも、本件につき刑訴411条※2を適用すべき事由ありとは認められない。

よって同408条※3により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。


※1 刑訴法405条
 高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の(もうし)(たて)をすることができる。
1号
 憲法の違反があること又は憲法の解釈に(あやまり)があること。
2号
 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
3号
 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
>>本文に戻る


※2 刑訴法411条
 上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であっても、左の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
1号
 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
2号
 刑の量定が(はなはだ)しく不当であること。
3号
 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
4号
 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
5号
 判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと。
>>本文に戻る


※3 刑訴法408条
 上告裁判所は、上告趣意書その他の書類によって、上告の申立の理由がないことが明らかであると認めるときは、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる。
>>本文に戻る

タイトルとURLをコピーしました