最判昭35.3.18 昭和34年(あ)第1812号:脅迫 刑集14巻4号416頁

judgment 刑法判例
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要 約

2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書を発送しこれを配達させたときは、脅迫罪(刑法222条)が成立する。

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

被告人本人の上告趣意について

所論は事実誤認の主張を出でないものであって適法な上告理由に(あた)らない。

弁護人高浜淳の上告趣意第1点について

所論は憲法37条1項※1違反をいうけれども、同条項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏()や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味するものであって、個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当な裁判を指すのではないことは既に当裁判所の判例(昭和22年(れ)第48号、同23年5月26日大法廷判決、集2巻5号511頁)とするところである。従って原審の証拠の採否が所論のように被告人の側からみて不利であったからとて原判決は前記憲法の規定に違反すると主張する所論は採るを得ない。

同第2点について

所論は原判決には経験則違背、審理不尽、理由不備の違法があると主張するものであって適法な上告理由に当らない。

同第3点について

所論は原審の証拠の取捨判断を非難し事実誤認を主張するものであって、適法な上告理由に当らない。

同第4点について

所論は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

弁護人毛利与一の上告趣意第1、2点について

所論はいずれも判例違反をいうが、原判決が如何(いか)なる判例に違反するか具体的に明示していないのであるから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同第3点について

所論は判例違反をいうが原判決が如何なる判例に違反するか具体的に明示していないから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反の主張であって(原審はその第2回公判期日を昭和34年5月21日午前10時と指定したが双方の意見を徴した上、右5月21日の期日を5月28日に変更し〔記録322丁〕その変更決定は弁護人等にも適式に送達されていること記録上明らかである)適法な上告理由に当らない。

弁護人横山勝彦の上告趣意第1点について

所論は違憲をいうが実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同第2点について

所論は判例違反を主張するけれども原判決は挙示の各判例の趣旨に何等相反する判断を示しているものとは認められない、所論の実質は単なる法令違反の主張に帰するものであって適法な上告理由に当らない。なお所論は要するに刑法222条※2の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件2枚の葉書の各文面は、これを如何に解釈しても出火見舞にすぎず、一般人が右葉書を(うけ)取っても放火される危険があると畏怖の念を生ずることはないであらうから、仮に右葉書が被告人によって(さし)出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれども、本件におけるが(ごと)く、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。

また記録を調べても刑訴411条※3を適用すべきものとは認められない。

よって同408条※4により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。


※1 憲法37条1項
 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
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※2 刑法222条(平成3年改正前)
1項
 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加ふ()きことを(もっ)て人を脅迫したる者は2年以下の懲役又は500円以下の罰金に処す
2項
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加ふ可きことを以て人を脅迫したる者(また)同じ
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※3 刑訴法411条
 上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であっても、左の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
1号
 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
2号
 刑の量定が(はなはだ)しく不当であること。
3号
 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
4号
 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
5号
 判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと。
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※4 刑訴法408条
 上告裁判所は、上告趣意書その他の書類によって、上告の(もうし)(たて)の理由がないことが明らかであると認めるときは、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる。
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