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1 意 義
死刑とは、「犯罪者の生命を剥奪することを内容とする刑罰」(大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ-総論』第3版、日本評論社、2019年、p.436、大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年、p.528)をいいます(生命の喪失を伴うことから、「生命刑」とも呼ばれます。)。
刑法は、死刑を最も重い刑罰としています(刑法10条1項、9条)。
なお、死刑を減軽するときは、無期の懲役・禁錮又は10年以上の懲役・禁錮(長期は30年(同法14条1項))となります(同法68条1項1号)。
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を30年とする。
法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
1号
死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮とする。
死刑を減軽して有期の懲役・禁錮とするときは、その期間は、10年以上30年以下となる。
2 死刑を科することのできる犯罪
現行法上、死刑を科することのできる犯罪としては、以下のものがあります(刑法犯12種類+特別刑法犯7種類=19種類)。
- 刑法犯
① 内乱罪(刑法77条1項)
② 外患誘致罪(刑法81条)※
③ 外患援助罪(刑法82条)
④ 現住建造物等放火罪(刑法108条)
⑤ 激発物破裂罪(刑法117条)
⑥ 現住建造物等浸害罪(刑法119条)
⑦ 汽車転覆等致死罪(刑法126条3項)
⑧ 往来危険による汽車転覆等罪(刑法127条)
⑨ 水道毒物混入致死罪(刑法146条後段)
⑩ 殺人罪(刑法199条)
⑪ 強盗致死罪(刑法240条後段)
⑫ 強盗・不同意性交等致死罪(刑法241条3項)
※ 絶対的法定刑として死刑のみが定められています(②以外は選択刑)。 - 特別刑法犯
① 爆発物使用罪(爆発物取締罰則1条)
② 決闘致死罪(決闘罪に関する件3条)
③ 航空機強取等致死罪(ハイジャック防止法2条)
④ 航空機墜落致死罪(航空危険行為等処罰法2条3項)
⑤ 人質殺害罪(人質強要行為処罰法4条)
⑥ 組織的殺人罪(組織的犯罪処罰法3条)
⑦ 海賊行為等致死罪(海賊対処法4条1項)
死刑は、犯行時に18歳未満であった者に対しては、科することができません(少年法51条1項)。
罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する。
3 執行方法
死刑の執行は絞首により(刑法11条1項)、死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設(=拘置所)に拘置されます(同条2項、刑事収容施設法3条4号)。
1項
死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
2項
死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
刑事施設は、次に掲げる者を収容し、これらの者に対し必要な処遇を行う施設とする。
4号
死刑の言渡しを受けて拘置される者
具体的には、明治6年太政官布告65号により、「対象者を絞架の踏板上に立たせ、絞縄を首に巻きつけたうえで、踏板を開落させて、緊縛により窒息死に至らせる執行方法」(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.64)がとられています。
なお、死刑の執行手続に関するその他の規定としては、刑訴法475条~479条、刑事収容施設法178条、179条があります。
1項
死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2項
前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。
法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。
1項
死刑は、検察官、検察事務官及び刑事施設の長又はその代理者の立会いの上、これを執行しなければならない。
2項
検察官又は刑事施設の長の許可を受けた者でなければ、刑場に入ることはできない。
死刑の執行に立ち会った検察事務官は、執行始末書を作り、検察官及び刑事施設の長又はその代理者とともに、これに署名押印しなければならない。
1項
死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によって執行を停止する。
2項
死刑の言渡を受けた女子が懐胎しているときは、法務大臣の命令によって執行を停止する。
3項
前2項の規定により死刑の執行を停止した場合には、心神喪失の状態が回復した後又は出産の後に法務大臣の命令がなければ、執行することはできない。
4項
第475条第2項の規定は、前項の命令についてこれを準用する。この場合において、判決確定の日とあるのは、心神喪失の状態が回復した日又は出産の日と読み替えるものとする。
1項
死刑は、刑事施設内の刑場において執行する。
2項
日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日、1月2日、1月3日及び12月29日から12月31日までの日には、死刑を執行しない。
死刑を執行するときは、絞首された者の死亡を確認してから5分を経過した後に絞縄を解くものとする。
4 選択基準
選択刑として死刑が規定されていても、安易に死刑を適用してはならず、以下の9項目を総合的に考慮し、刑事責任が極めて重大で、罪刑均衡及び一般予防の見地からやむを得ない場合に、死刑を選択することも許されるとされています(最判昭58.7.8(永山事件)、高橋則夫『刑法総論』第4版、成文堂、2018年、p.548、西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、pp.71-73参照)。
- 犯行の罪質
- 犯行の動機
- 犯行の態様(特に殺害の手段・方法の執拗性・残虐性)
- 結果の重大性(特に殺害された被害者の数)
- 遺族の被害感情
- 社会的影響
- 犯行時の年齢
- 前 科
- 犯行後の情状
もっとも、死刑を選択するに当たっての考慮要素は、これらに限定されるわけではなく、犯行の計画性の有無・程度や、共犯者がいる場合の被告人の役割なども、重要な判断要素とされる場合があります(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.74参照)。
また、死刑に特別な威嚇力があることの証明を積極的にすることはできず、死刑を科されるのが極めて例外的な場合であることを考慮すると、一般予防(=一定の行為をすれば一定の刑罰が科されることを予告することによって一般人を威嚇し、犯罪を行うことから遠ざけること)の見地という点は、実際的な基準としてはあまり意味がなく、罪刑均衡の見地が、死刑選択の核心的な基準となるとされています(西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.69参照)。
なお、罪刑均衡の見地との関係で、犯行後の情状(=被告人の矯正可能性)の観点をどの程度考慮すべきかについては、最判平18.6.20(光市母子殺害事件)を参照してください。
5 合憲性
憲法36条は残虐な刑罰を禁じていますが、死刑が直ちに残虐な刑罰に当たるものではなく(最大判昭23.3.12)、また、絞首という方法が他の方法よりも人道上特に残虐なものとは認められない(最大判昭30.4.6(帝銀事件))ので、憲法36条には違反しないとされています。
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
6 死刑存廃論
死刑を廃止すべきか否かについては議論があり、存置論及び廃止論の主な論拠は、それぞれ以下のとおりです(大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年、pp.530-531、高橋則夫『刑法総論』第4版、成文堂、2018年、p.548、西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年、p.75参照)。
- 存置論
① 社会一般の正義感や応報感情
② 被害者遺族の感情
③ 一般予防(死刑には特別な威嚇力がある。)
④ 特別予防(極悪な犯罪者は、生命を剥奪して社会から完全に隔離すべきである。)
など - 廃止論
① 死刑はそれ自体残虐である。
② 死刑は国家による殺人である(殺人を犯罪とする国家がこれを行うのは矛盾する。)。
③ 死刑に特別な威嚇力はない。
④ 誤判の場合に回復が不可能である。
⑤ 対象者の改善更生を図る余地がなくなる。
など
死刑を廃止している主な国又は州には、以下のものがあります(数字は廃止年です。)。
- ポルトガル(1867年)
- オランダ(1870年)
- スイス(1874年)
- ノルウェー(1905年)
- スウェーデン(1921年)
- メキシコ(1929年)
- デンマーク(1930年)
- スペイン(1932年)
- ニュージーランド(1941年)
- イタリア(1944年)
- ドイツ(1949年)
- フィンランド(1949年)
- オーストリア(1950年)
- イギリス(1965年)
- フランス(1981年)
- アルゼンチン(1984年)
- アメリカ合衆国ミシガン州(1846年)をはじめとした22州(2020年3月現在)
死刑を制度上又は事実上廃止した国は100か国以上あり、世界の現状としては、死刑を廃止する方向にあるといえます(大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年、p.530、西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年、p.11参照)。
7 確認問題
平成21年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第18問
次のアからオまでの各記述を検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。
ア.犯罪行為を組成した物が共犯者に属するときは、その物を没収することができない。
イ.死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とするときは、その長期を20年とする。
ウ.前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者が5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。
エ.法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできないが、情状により、法律上の減軽のみならず、更に酌量減軽もすることができる。
オ.懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の2分の1を経過した後、仮に釈放することができる。
法務省「平成21年司法試験問題」短答式試験(刑事系科目)
⑴ 解 説
ア.について
没収することができるためには、対象となる物(=組成物件・供用物件・生成物件・取得物件・報酬物件・対価物件)が、犯人以外の者に属していないことが必要となり、ここにいう犯人には、共犯者も含まれます。
そして、犯罪行為を組成した物は組成物件に該当し、また、当該物が共犯者に属しているということは、当該物が犯人以外の者に属していないということになるので、当該物は没収することができます。
したがって、ア.は誤りです。
- 没収の詳細については「こちら」を参照してください。
イ.について
死刑又は無期懲役・禁錮を減軽して有期懲役・禁錮とする場合、その長期は30年となります(刑法14条1項)。
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を30年とする。
したがって、イ.は誤りです。
ウ.について
前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者に、初度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができるためには、その者が、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたことが必要となります(刑法25条1項1号)。
1項
次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
1号
前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
(以下省略)
したがって、ウ.は誤りです。
エ.について
刑法38条3項は、以下のように規定しています。
法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
したがって、エ.は正しいです。
オ.について
刑法28条は、以下のように規定しています。
懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の3分の1を、無期刑については10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
したがって、オ.は誤りです。
⑵ 解 答
ア.~オ.は、それぞれ、「誤り」「誤り」「誤り」「正しい」「誤り」となります。
したがって、解答は2-2-2-1-2ということになります。
8 参考文献
- 大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ-総論』第3版、日本評論社、2019年
- 大谷實『刑法講義総論』新版第5版、成文堂、2019年
- 高橋則夫『刑法総論』第4版、成文堂、2018年
- 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法総論』第3版、弘文堂、2019年
- 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法 第1巻 総論』有斐閣、2010年