名古屋高判昭26.11.30 昭和26年(う)第1474号: 賭博被告事件 高刑集4巻13号1996頁

judgment 刑法判例
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要 約

併合罪の関係にある罪ついて2個以上の科料を併科する場合において、各罪に科した科料金額が判決理由において明示され、又はそれをうかがい知ることができるときは、判決主文には、科料金額を格別に表示することなく、合計額を一括して表示することができる。

主 文

本件各控訴を棄却する。

理 由

本件各控訴の趣意については検察官及び弁護人渋谷正俊各提出に係る控訴趣意書を引用する検察官及び弁護人は各その相手方の控訴は理由のないものとして(それ)(ぞれ)その棄却を求めた。

検察官の控訴趣意について

原判決によれば原審が各被告人について夫々論旨摘録に係る2回の賭博の事実を判示しこれに論旨摘記の法条を適用した上各被告人を科料1,000円に処したこと及び罰金等臨時措置法第2条第2項※1によれば科料は5円以上1,000円未満と規定されていることは各所論の通りであり従って少くとも1個の罪に対し科料刑を選択した場合1,000円以上の科料を量定し得ないことは明かである。

(しか)しながら原審の判示事実とその適用法条とを対照すれば原審が各被告人に夫々科料1,000円を言渡したのは各被告人の右2回の賭博行為を以て夫々刑法第185条※2所定の2個の賭博罪とし()つ右2個の罪は同法第45条前段※3の併合罪の関係にあるものとし各被告人の各罪について(いず)れも科料刑を選択し夫々5円以上1,000円未満の金額の範囲内で量刑しその各量定された金額を主文において一括して表示した趣旨であることが認められる。論旨は原審適用に係る刑法第53条第2項※4は法定刑が単に拘留刑若くは科料刑である場合に限って適用さるべきものと論ずるが右の見解は法文並びに理論上の根拠を欠如し採用し難いものであって右法条は処断刑として数個の拘留刑若しくは科料刑を科する場合に適用されるものと解すべきものである。

(しこう)して右刑法第53条第2項によれば拘留刑若くは科料刑を以て処断すべき併合関係にある数個の事実に科刑する場合はその刑を併科すべきものと規定し罰金刑の場合における刑法第48条第2項※5のような規定がないのであるから拘留刑若くは科料刑に処すべき併合関係ある数個の事実に対しては唯1個の刑を量定することは許されずその各事実毎に各別にその刑を量定した上それ()を併科せねばならぬのであるがこの場合の併科ということは論旨のように必ず裁判の主文においても各事実とこれに対する刑を他の事実とその刑から区別して個別的に表示せねばならぬものか否かについて考究するに(およ)そ刑の併科とは同一被告人に対し数個の刑を同一機会において科することと解されるがそうだとすると裁判の理由において各事実毎に各別にその刑が量定判示せられている以上その主文において各事実とこれに対する刑が他の事実とその刑から区別して夫々個別的に表示されていても(はた)(また)それ等の事実を表示することなくその各量定された刑を一括して表示(例へば第1事実に対して拘留10日、第2事実に対して科料200円と各量定したときこれを主文に拘留10日及び科料200円と表示し又第1事実に科料500円、第2事実に対して科料200円と各量定した場合にこれを主文において科料700円と表示)されていても各事実に対して量定された数個の刑を併科したとすることに何等差支がないと思われるので刑法第53条第2項に所謂(いわゆる)併科が主文における一括的表示を許さないという趣旨とは解し得ない。(もち)(ろん)併合関係のない数個の事実についても各事実毎にその刑を量定してそれ等を併科するのであるがこの場合は併合関係のある場合と異りその各刑は(あたか)も別人に刑が言渡される場合と同じく主文においても必ず各事実とこれに対する刑が他の事実とその刑から区別されて個別的に表示されていなければならすその刑を一括表示することは許されないがそれは単に併科ということからそうせねばならぬのではなくその科刑の根抵たる事実が併合関係のない単純な数罪であることに由来するものであって本件のように併合関係にある数罪に対する場合と同一に論ずるのは誤りである。加之(しかのみならず)法が単純な数罪と区別して併合罪という観念を認めるのは併合罪は1罪ではないが何等か特別の事情のない限り可成(なるべ)くこれを一括的に処理しようとする意図に出たものと解せられ右の観点からすればむしろ併合罪において刑を併科する場合でもその刑を一括的に取扱うことが原則的に要求されているものといえる。而し他面その処分に関して各事実毎にこれに対する刑を量定するということから併科の場合は所謂吸収主義や加重主義が採られている場合に比して単純な数罪の処分に近似せざるを得ず勢いその一括的処理の色彩も稀薄となることはこれを容認せざるを得ないのであって主文における一括的表示の要求もおのづから微弱となり例えば誤解や疑義や混雑を来すような(おそれ)がある等何等かの利益があるときは主文における刑の一括的表示の要求に拘泥する必要はなく各事実とその刑とを他の事実と刑から区別して個別的に表示することを拒否するものではなくその具体的場合における適宜の技術的操作に委ぬるものと解さざるを得ないのであり原審がその主文において科料1,000円と表示したのは既に説示したように本件2個の賭博罪に対して各別に量定した2個の科料刑を一括的に表示したものでありかかる主文の表示方法の適法なことも(また)右に説明したところである。(もっと)もこの点において罰金等臨時措置法第2条第2項に科料の多額は1,000円未満と規定されているから例え2個の科料刑を併科する場合でも右の規定に制約され科料1,000円とすることは場合の如何(いかん)を問わず違法となるのではないかとの疑念が一応ないわけではないが右の制限は一の科料刑を量定する場合の制限と解するのを相当とし数個の科料刑が量定されその併科が認められる以上その科料の合計額が右の制限を超ゆるに到る場合のあることは(もと)より法の予想するところというべきであり従って主文においてこれを一括した結果右の制限を超ゆる表示がなされても違法といえないとせねばならない。(ただ)し原判決の主文の刑の表示は違法といえないにしてもその理由を理解する迄は一応その表示自体右の制限を無視したような疑念抱かせる虞があるので技術的には穏当でなかったといえるであろう。

更に進んで夫々科料に処すべき併合罪の量刑に当っては刑法第48条第2項の場合と同様に(すなわ)ちその数罪に対し1個の科料刑を量定することは許されないのでその主文における表示方法は別としてもその理由の説示においては各事実毎に各別にその刑を量定したことが明白に示されておらねばならぬことは当然のことであるが原判決の理由に為いては単に被告人等の行為に対し論旨摘録の法条が適用してある丈で(いず)れの事実にどの程度の量刑をしたかが明示されておらずその理由説示としては不十分であるとの護を免れ得ないが本件各事実の態様その他一切の記録にあらわれた事情を考慮しても各被告人の各事実に対する量刑に差等を附さねばならぬと思われる節がないので原審は各被告人の各事実に対し夫々科料500円と量刑したことは(うかが)い得られぬこともないから右の理由説示の()()(いま)だ原判決を破棄する程度の理由不備ともなし難いのである。

弁護人の控訴趣意について

本件犯行の態様に徴し論旨所論の事情を考慮しても到底原審の量刑が重きに過ぎるものとはなし得ない。

その他原判決を破棄せねばならぬ瑕疵がないので本件各控訴は何れも理由のないものとして刑事訴訟法第396条※6(のっと)って夫々これを棄却すべきものと認めて主文の通り判決する。


※1 罰金等臨時措置法2条2項(昭和47年改正前)
 科料は、刑法第17条及び刑法施行法第20条の規定にかかわらず、5円以上1,000円未満とする。
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※2 刑法185条(賭博)
 ()博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
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※3 刑法45条前段(併合罪)
 確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とする。
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※4 刑法53条2項(拘留及び科料の併科)
 2個以上の拘留又は科料は、併科する。
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※5 刑法48条2項(罰金の併科等)
 併合罪のうちの2個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。
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※6 刑訴法396条
 第377条乃至第382条及び第383条に規定する事由がないときは、判決で控訴を棄却しなければならない。
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