総 論
- 最大判昭23.6.23 昭和22年(れ)第279号:銃砲等所持禁止令違反 刑集2巻7号722頁
旧憲法上の法律は、その内容が新憲法の条規に反しない限り、新憲法の施行後も効力を有する。
包括的基本権
プライバシー権
- 最判昭56.4.14(前科照会事件) 昭和52年(オ)第323号:損害賠償等 民集35巻3号620頁
前科及び犯罪経歴は人の名誉・信用に直接関わる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する一方で、前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるが、弁護士法の規定に基づく弁護士会からの照会に漫然と応じて犯罪の種類・軽重を問わず、前科等の全てを報告することは、公権力の違法な行使に当たる。 - 最判平6.2.8(ノンフィクション「逆転」事件) 平成1年(オ)第1649号: 慰藉料 民集48巻2号149頁
ある者が刑事事件について公訴提起されて有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接に関わる事項であるから、その者は、みだりに前科等に関わる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有し、また、有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるので、その者は、前科等に関わる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。
ある者の前科等に関わる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等に関わる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、その者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。
精神的自由権
思想・良心の自由
- 最大判昭31.7.4 昭和28年(オ)第1241号:謝罪広告請求 民集10巻7号785頁
単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度の謝罪広告を新聞紙に掲載することを命ずる判決は、憲法19条(思想・良心の自由)に反しない。
表現の自由
- 最大判昭24.5.18 昭和23年(れ)第1308号:食糧緊急措置令違反 刑集3巻6号839頁
国民は、憲法が保障する基本的人権を濫用してはならず、常に公共の福祉のために利用する責任を負う(憲法12条)ので、言論の自由といえども絶対無制約ではなく、公共の福祉による制約を受ける。 - 最大判昭25.9.27 昭和24年(れ)第2591号:教育委員会委員選挙罰則違反 刑集4巻9号1799頁
憲法21条は絶対無制限の言論の自由を保障しているのではなく、公共の福祉のためその時、所、方法等について合理的制限が存することを容認しているものといえるから、選挙の公正を期するため戸別訪問を禁止した結果として、言論自由の制限をもたらすことがあったしても、憲法に違反するものということはできない。 - 最大判昭44.6.25(夕刊和歌山時事事件) 昭和41年(あ)第2472号:名誉毀損 刑集23巻7号975頁
刑法230条の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものであり、両者間の調和と均衡を考慮すると、刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪(刑法230条1項)は成立しない。
真実性の証明の方法は、厳格な証明による。 - 最大決昭44.11.26(博多駅テレビフィルム提出命令事件) 昭和44年(し)第68号:取材フィルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告 刑集23巻11号1490頁
報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値する。
報道機関の取材フィルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重及び取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するに当たっての必要性の有無を考慮するとともに、これによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度を超えないように配慮されなければならない。 - 最判昭56.4.16(月刊ペン事件) 昭和55年(あ)第273号:名誉毀損 刑集35巻3号84頁
私人の私生活上の行状であっても、その携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たり得る。
「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであって、摘示された事実の公共性の有無の判断を左右するものではない。
人身の自由
被告人の権利
- 最大判昭23.3.12 昭和22年(れ)第119号:尊属殺、殺人、死体遺棄 刑集2巻3号191頁
死刑そのものは憲法36条にいう「残虐な刑罰」には当たらず、刑法の死刑の規定は憲法に反しない。 - 最大判昭23.5.26 昭和22年(れ)第48号:窃盗 刑集2巻5号511頁
憲法37条1項にいう公平な裁判所の裁判とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成を持った裁判所による裁判を意味し、個々の事件について、その内容実質が具体的に公平妥当な裁判を指すものではない。 - 最大判昭23.7.29 昭和23年(れ)第168号:食糧管理法違反、物価統制令違反 刑集2巻9号1012頁
公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項の「本人の自白」に含まれない。 - 最大判昭23.12.22 昭和23年(れ)第1071号:窃盗 刑集2巻14号1853頁
裁判が迅速を欠き憲法37条1項に違反したとしても、それが判決に影響を及ぼさないことは明らかであるから、上告の理由とすることができない。
公判廷における自白は、憲法38条3項の自白に含まれない。 - 最大判昭24.2.9 昭和24年(れ)第1010号:窃盗 刑集3巻2号146頁
憲法38条1項の不利益供述強要の禁止は、威力その他特別の手段を用いて供述する意思のない被告人に供述を余儀なくすることを禁ずる趣旨で、裁判所が被告人に対してその陳述を求めるのに先立って、自己に不利益な答弁をする義務がない旨を説示することを要求しているものではないから、裁判所がそのような説示をしなかったとしても、違法ではない。 - 最大判昭24.11.30 昭和24年(れ)第238号:偽造公文書行使、公文書偽造、詐欺 刑集3巻11号1857頁
憲法37条3項の弁護人依頼権は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所・検察官等は、被告人がこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければよく、弁護人を依頼する方法や費用等についてまで説示する必要はない。 - 最大判昭25.3.15 昭和24年(れ)第731号: 強姦致傷、窃盗 刑集4巻3号355頁
裁判所が証人尋問中に被告人を退廷させても、尋問終了後に被告人を入廷させたうえで証言の要旨を告げて証人尋問を促し、かつ、被告人が退廷している間、弁護人が終始尋問に立ち会って補充尋問もした場合は、被告人が証人に対して審問する機会を十分に与えなかったものということはできず、証人審問権を保障した憲法37条2項前段に違反しない。 - 最大判昭30.4.6(帝銀事件) 昭和26年(れ)第2518号:強盗殺人、同未遂、殺人予備、私文書偽造、偽造私文書行使、詐欺、詐欺未遂 刑集9巻4号663頁
現在我が国が採用している方法による絞首刑は、憲法36条にいう「残虐な刑罰」に当たらない。 - 最大判昭32.2.20 昭和27年(あ)第838号:威力業務妨害、公務執行妨害、傷害 刑集11巻2号802頁
憲法38条1項は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである。被告人の氏名は、原則として不利益な事項ということはできないので、これを黙秘する権利はない。 - 最判昭58.7.8(永山事件) 昭和56年(あ)第1505号:窃盜、殺人、強盗殺人、同未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反 刑集37巻6号609頁
死刑制度を存置する現行法制の下では、①犯行の罪質、②動機、③態様(殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性)、④結果の重大性(殊に殺害された被害者の数)、⑤遺族の被害感情、⑥社会的影響、⑦犯人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許される。 - 最判平18.6.20(光市母子殺害事件) 平成14年(あ)第730号:殺人、強姦致死、窃盗被告事件 集刑289号383頁
①犯行の罪質、②動機、③態様(殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性)、④結果の重大性(殊に殺害された被害者の数)、⑤遺族の被害感情、⑥社会的影響、⑦犯人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択するほかない。
社会権
労働基本権
- 最大判昭24.5.18 昭和22年(れ)第39号:脅迫 刑集3巻6号772頁
勤労者以外の団体又は個人の単なる集合にすぎないものに対してまで、憲法28条の労働基本権の保障は及ばない。また、一般民衆は、法規その他公序良俗に反しない限度で大衆運動を行うことができるが、そうだからといってその運動に関する行為であれば常に刑法35条の正当行為として刑罰法令の適用が排除されるわけではない。 - 最大判昭25.11.25(山田鋼業事件) 昭和23(れ)第1049号:窃盜 刑集4巻11号2257頁
憲法は、勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障するとともに、全ての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであるから、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めておらず、一般的基本的人権と労働者の権利との調和を期待しているのであるから、この調和を破らないことが、争議権の正当性の限界となる。