最大判昭24.6.1 昭和23年(れ)第1951号:昭和22年政令第328号違反、議院に於ける証人の宣誓及び証言等に関する法律違反 刑集3巻7号901頁

judgment 刑事訴訟法判例
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要 約

議院における偽証罪等の告発について特に議院証言法で特別の規定を設けたのは、議院内部のことは議院の自治問題として取り扱うという趣旨なので、同罪については、告発が起訴条件となる。

主 文

原判決中議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件に対する部分を破棄し、同事件に対する公訴を棄却する。

()余の部分に対する本件上告を棄却する。

理 由

検事の上告趣意について

本件公訴事実の要旨は、被告人が本件50万円を日本社会党に対する寄附として受領しなから、本件政令所定の届出を()さず且つ本件議院委員会における証人として、同党に対する寄附ではなく自己個人に対する献金である旨虚偽の証言を為したと言うのであり、これに対し被告人は右50万円は日本社会党に対する寄附ではなく同党書記長乃至(ないし)は幹部である被告人個人に対する寄附である旨弁()し、そして、原判決は右主要な争点に対し所論のごとく()ず右寄附金の贈与者たる業者側の意図と受贈者側たる被告人の認識との両方面に分け更らにその両方面の各面につきそれぞれ多数の証拠を挙示して検察官の主張するように党に対する寄附であると認定できるようであるが結局被告人の弁解するように幹部としての個人に対する寄附であると認定するのが相当で、要するに以上認定の業者側の意図及び被告人の認識に照らし本件金50万円は日本社会党の右派の有力な指導者若しくは幹部である被告人に対していわゆる同党左派を除いた日本社会党の健全な発達に資するために個人的にその処分を一任して供与するという趣旨のもとに授受されたものとし、従って、政党そのものに対する財政的援助に関する本件政令に違反するものではなく、また、虚偽の証言ともいえないとして被告人に到し無罪の言渡をしたものである。

そして、昭和22年政令第328号には、「国会議員たる構成員を有する政党の幹事長その他これに準ずる主幹者は、昭和22年中における当該政党に対する有力な財政的援助者(中略)の住所及び氏名並びにその援助の金額を、昭和23年1月15日までに、当該政党の主たる事務所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。前項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、これを10年以下の懲役又は禁錮に処する(うん)(ぬん)」と規定して、昭和21年勅令第101号(政党、協会其ノ他ノ団体ノ結成ノ禁止等ニ関スル件)第5条第1項の規定に該当する団体中特に国会議員たる構成員を有する政党に限り、昭和22年中における当該政党に対する同条第2項第5号の事項につき特別の届出義務あることを定めている。従って、同政令の届出義務は財政的援助が当該政党に対する場合、換言すれば、その財政的援助の使用若しくは収益又は処分等を為す権利が当該政党に帰属する場合に限り存在するものであって、その構成員個人のみに帰属するに過ぎない場合を包含しないこと同勅令就中(なかんづく)同第5条が団体の結成を禁止しその内容を公開する立法趣旨であること並びに右政令の規定の明文が「当該政党に対する」とあるに照し極めて明瞭である。それ故この点に関しこれと同趣旨に出た原判決の説示は正当であって論旨第5点で主張する見解並びにこれを前提とする所論は採るを得ない。されば、被告人が仮りに同政令所定の主幹者に該当するとしても、同令所定の届出義務違反たるには、被告人の主観的認識において、財政的援助が当該政党に対するものであることを認識していたことを要するものといわねばならない。

(しか)るに、この被告人の主観的認識に関する原判決の説示は、前述のごとく検察官の主張を排斥して被告人の弁疏した事実、すなわち、原審公判廷における本件寄附金の受領についての認識に関する被告人の供述を原判決挙示の証拠及びこれに基く推測事実により真実なりとしてこれを採用した趣旨に過ぎないもので、もとより罪となるべき事実を証拠により認定したものでないことは、冒頭で述べた原判決説示の経緯就中原判決が特に証拠としてこの点に関する被告人の原審公判廷における供述を引用している事(せき)に照し明らかなところである。そしてかかる被告人の供述を採用すると否とは原審の自由裁量に属するものであるこというを待たないところである。されば()の点に関する論旨第1の2及び第4の所論は結局原審の自由裁量の非難に帰着するから採用するを得ない。

そして、既に被告人の主観的認識にして党に対する寄附金に(あら)ずして個人に対する献金なりとする以上、仮りに寄附者側の意図が党に対するものであったとしても、本件政令違反の不成立を妨ぐるものでないから爾余の第1の1、第2、第3の各論旨はすべて原判決に影響を及ぼさないこと明白であって採るを得ない。

しかし、旧刑訴第434条第2項に基き職権を(もっ)て調査するに、昭和22年法律第225号議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律は、その立法の経過に照し、各議院の国政に関する調査の必要上規定せられた議院内部の手続に関するものである。そして議院における偽証罪等の告発について特に同法第8条本文及び但書のごとき特別の規定を設けた趣旨に徴すれば議院内部の事は、議院の自治問題として取扱い同罪については同条所定の告発を起訴条件としたものと解するを相当とする。然るに本件偽証罪については衆議院又は判示委員会の告発がないこと明らかであるから、同罪に対する公訴は不適法といわねばならなぬ。従って、本件偽証罪に対する公訴を受理し、これにつき実体的審理を行い被告人を無罪とした原判決は違法であるというべく、この部分に対する本件上告は、結局その理由あるに帰し、原判決は破棄を免れない。

よって原判決の右部分については、旧刑訴第447条、第455条、第364条第6号に従い、爾余の部分については、同第446条に従い主文のとおり判決する。

右は裁判官真野毅、同岩松三郎の少数意見を除く他の裁判官全員の一致した意見である。

少数意見

裁判官真野毅、同岩松三郎の意見は次のとおりである。

私は、本件は破棄されるべきものと信ずる。左にその理由を述べる。

原判決は冒頭において「昭和22年4月11日頃被告人がA工業株式会社専務取締役Bから、C工業会所属の株式会社D工務店外十数社の土木建築業者が日本自由党・民主党及び日本社会党を援助する目的をもって共同募金した合計金350万円の中金50万円を受領した事実」を証拠により認定した。

次に(イ)原判決は、業者がいかなる目的をもって共同募金を計画し又いかなる趣旨のもとに本件50万円を被告人に交付したかすなわち業者側の意図について、「本件金50万円はD工務店をはじめとする土建業者の有志等が昭和22年4月25日の衆議院議員総選挙に際し、当時の進歩党・日本自由党及び日本社会党の三大政党の選挙費用を援助するため合計金350万円を共同募金し、進歩党及び日本自由党には各金150万円づつを、社会党には金50万円を、それぞれ寄附する目的で、進歩党についてはEを、日本自由党については当時の幹事長Fを、それぞれ党の代表者としてこれに右150万円を各手交したのと同様に、社会党についても当時同党の書記長であった被告人をその代表者と目し、これに金50万円を手交したものであると認定できるようである」と一応認定した。その証拠としては、⑴原審証人G、⑵同Bの各原審第3回公判調書中の供述記載、⑶H、⑷I、⑸Jに対する検事の各聴取書を挙げている。

そして、(ロ)「さらに事実を()細に検討するのに」と言って、「業者が本件金50万円を被告人に交付した意図は自由党のF、進歩党のEに金150万円づつを交付した場合とはその趣旨を異にし、社会党の右派のみを援助することが目的であったことから推認すれば、右は社会党そのものに対し正式に寄附するものではなく、右派の最も有力な指導者でその代表的な幹部であり当時書記長の要職にあった被告人に寄附して被告人の自由な判断のもとにこれを右派の人々の選挙費用その他の政治資金に充てさせる趣旨のものであり、左派をも含めた社会党そのものに対し寄附する意図でなかったことを認めるに充分である」と認定している。この認定には、⑴被告人の原審公廷における供述、⑵原審証人K、⑶同L、⑷同M、⑸同G、⑹同N、⑺同O、⑻同P、⑼同Q、⑽同I、⑾同J、⑿Rの公判調書中の各供述記載、⒀各党支持の理由と題する書面を総合証拠として掲げている。さて本件昭和22年政令第328号にいわゆる「政党に対する有力な財政的援助」は、通俗に政党に対する献金又は寄附金と一般に呼ばれるものである。(A)この政党に対する財政的援助は、何()の条件も何等の希望も附けられずに、全く無条件無希望でなされる場合もあれば、また何等かの条件ないし希望附でなされる場合もあり得る。これらの両者の場合がいずれも政党に対する財政的援助に該当することは、健全な社会常識上疑を()れないところである。例えば、ある学校に対し、欠食児童のための給食用という条件ないし希望を附けて寄附をしても、又は顕微鏡買入用という条件ないし希望をつけて寄附しても、それはいずれも学校に対する寄附である。また、ある養老院に対し、70歳以上の老婆の慰安のための費用という条件ないし希望を附けて寄附してもそれは養老院に対する寄附である。同様に、ある政党に対し、40歳以下の立候補者のための援助用又は本部新築用という条件ないし希望を附けて寄附しても、またある政党の一部分を除き他の党員の選挙費用を援助するという条件ないし希望をつけて寄附しても、それはいずれも政党に対する寄附であるといわなければならぬ。そして条件ないし希望にも、各具体的の場合に従って、寛厳の差等の度合が色々あるであろう。その厳しい場合には政党が財政的援助の条件を履践しないときに、援助者は法律的に該条件の履践を請求することができたり、又は援助を解除して援助金の返還を請求することもできるできるであろう。その(ゆる)やかな場合には条件ないし希望は、何等法律上の効力を有するものでなく、単に道義的の問題として取扱われるに過ぎないことが多いであろう。そもそも、デモクラシーの起源はギリシャであり、ギリシャ語でデモは人民(市民)、クラシーは統治(支配)することを意味する。このデモクラシーの思想の発()したギリシャ人の間においては、また競技が教課の真の基本をなしていた。同様にまた、近代デモクラシーの代表国家である米国においても、あらゆるスポーツが旺盛を極めている。米国の打ち建てられている基礎は、実にデモクラシーとスポーツマンシップである。それは、結局フェア・プレーの精神が基調をなしているのである。そして、前記政令規定の趣旨もまた同様に、政党における政治意思の形成に及ぼす物質力の影響を公示・公開(届出及び公衆に縦覧)せしめることによって、国民の批判と判断の自由の下に、現実政治の公明・正大・健全・明朗すなわちフェア・プレーの精神を実現し、その秘密・隠暗()における交渉取引による政党政治の腐敗と堕落を防止せんとするにあることは、(ごう)も疑のないところである。言いかえれば、この法規は、政党の政治資金を規正し、民主政治の健全な運営と発達を図る高速な目的を有するもので、憲法による民主政治を保障する一連の重要な裏付規定の一環をなすものである。しかるに若し、条件ないし希望附の政党に対する寄附は、政党に対する財政的援助でないと解するならば、前記政令の規定は、寄附に際し何等かの条件ないし希望を附けることによって、いともたやすく踏みにじられ得る結果となる。かような不合理と不都合とは、(はなは)だしく、フェア・プレーの精神に背反し政党政治のコラプションを防止せんとする法の目的に背()するものであって到底許さるべきものではない。(B)次にまた別の観点から見れば、政党に対する財政的援助は、政党に対し単純に直接的になされる場合もあれば、また政党を受益者とし政党の幹部又はその他の者を受託者として、信託行為の定めるところに従い信託財産を管理処分せしめる信託的の法律形態又はこれに類似の形式を利用してなされる場合もあり得る。そして、これらの場合は、いずれも政党に対する財政的援助に該当するものと言わねばならぬ。なぜならば、これらの方法によっても政党は十分に実質的な財政的援助の利益を受け得るわけであり、かつ若しこれをしも財政的援助でないとすれば、前記政令の規定はこれらの形式を利用することによって、容易に潜脱が行われることとなり、フェア・プレーの精神に反し法の目的に背く結果となるからである。

そこで、再び原判決にかえる。原判決は、(はた)してよく前記(A)(B)の2点について十分意識的な認識を持っていたであろうか。また、その認識が十分に判決の文面に表現されたであろうか。私は、これらの点について心中大いなる疑を(いだ)く、(いな)懐かざるを得ない。

第一に原判決は、「業者が本件金50万円を被告人に交付した意図は、、、、、、社会党の右派のみを援助することが目的であったことから」直ちに「右は社会党そのものに対し正式に寄附する趣旨のものではない」と「推認」し、この推認から「左派をも含めた社会党そのものに対し寄附する意図でなかったことを認めるに十分である」と認定している。しかしながら、「社会党の右派のみを援助することが目的であったこと」から、即座に社会党を援助する趣旨のものでないと推認することは甚だしい独断である。ここに推理上の違法が明らかに存在する。なぜならば、前掲(A)において述べたごとく、「右派のみを援助する」条件ないし希望附で援助がなされとしても、それは社会党に対する援助と認め得られるからである。また前掲(B)において説いたように、「右派のみを援助する」目的の実現を希望するためにかかる条件ないし希望をつけて、当時社会党の書記長であった被告人に交付し、被告人の適当な判断のもとに右派を援助する形式によったものであるとしても、社会党は十分に実質的な財政的援助の利益を享受し得るわけであり、従ってこれを社会党に対する援助と認め得られる場合が存するからである。さらに、原判決の挙げている証拠について少しく検討をしてみよう。前掲(イ)に述べた「社会党についても当時同党の書記長であった被告人をその代表者と目し、これに金50万円を手交したものであると認定できるようである」との事実認定の証拠として挙げている前掲⑴ないし⑸の各証拠は、いずれも皆全く無条件・無希望で社会党に対し寄附したと認められる証拠ばかりである。次に、前掲(ロ)に述べた事実認定の証拠として挙げている前掲⑴ないし⑷の各証拠は、いずれも単に社会党内に左右両派の対立が現存したことを立証しているに過ぎない。⑸のGは、「社会党の左派特に共産党系の者を除くというわけであった」、「赤(すなわち容共派)を除いた社会党に金を出した」、「当時Sは社会党内で一番有力者で左派はきわめて小さな存在で、その中の一部に赤がいると考えた」、「50万円は社会党が選挙をするについて、社会党のために使う金として援助したものである」、「Sが社会党の活動のため具体的にこれをいかなる費用に使うかはSの判断にまかせた」、「ただ自分等の希望としては、容共派の人には金を渡して(もら)いたくないということを述べた」と供述している。⑹のNは、「社会党は赤の分子を除いた社会党を援助する意味であった」、「この50万円は表向きは赤を除いた社会党えの献金であるが、実際に考えればS一派を目標にしたのでそれが主軸であるから結局党に出したということになる」と供述している。⑺のOは、政党に対する献金を「社会党にも出すことになった」と供述している。⑻のPは、「各党支援の理由は、、、、、、赤を除いた社会党を支援するとの意味である」、「50万円の趣旨はSに渡せば赤を除いた人に渡ると思つたので結局、、、、、、赤を除いた社会党に対する献金である」と供述している。さて、これらの⑸ないし⑻の証拠によれば、赤(容共派)を除き赤に渡らないという条件ないし希望をつけて社会党に財政的援助をしたとの認定はできるが、社会党に対する援助ではないとの認定はできないのである。しかるに、原判決が「右は社会党そのものに対し正式に寄附する趣旨のものではない」、と認定したのは、単純に無条件・無希望の社会党に対する寄附だけを党に対する寄附と速断し、従って前掲(A)の条件ないし希望つきの寄附は党に対する寄附にあらずと速断した推理上の違法に基くものである。さらにまた社会党に対する直接の寄附だけを党に対する寄附と速断し、従つて前掲(B)の法律形態又はこれに類似の形式を利用する党に対する財政的援助は党に対する援助にあらずと速断した推理上の違法に基くものであると言わねばならぬ。ましてや前掲(イ)の⑴ないし⑸の各証拠は、いずれも社会党に対する無条件・無希望の寄附を認定するに足るものであり、かつ原判決もこれらの証拠によってそのように一応認定できるとしたのである。されば、前掲(A)及び(B)に述べたような党に対する援助を是認する以上、本件の寄附を被告人個人に対する寄附と認定するがためには的確な証拠が要請されるわけである(前掲(ロ)の⑴ないし⑻の各証拠はそれに値いしないことは前に述べた)。以上説明したところによって、原判決には推理上の違法が存在することが論証されたと思う。よって、上告は結局理由があるから原判決は破棄差戻さるべきである。(なお、原判決は、被告人が本件寄附を党に対する寄附でなく被告人個人に対する寄附であると認識していた旨を認定しているが、この認定も原審における前述の推理上の違法を前提根拠としてはじめて認められたものであることは明白であるから、その違法なることは(もち)論であって被告人の認識についても前述の推理の見地に立ってさらに再検討の上認定さるべきものである。最後に、本件偽証罪が親告罪の性質を有する点については、多数意見と考え方を同じくする)。

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