威力業務妨害罪

forcible_obstruction_of_business 刑法各論
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Contents

1 意 義

威力業務妨害罪(刑法234条)とは、威力を用いて、人の業務を妨害する行為を処罰する犯罪です。

刑法234条(威力業務妨害)

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

2 保護法益

威力業務妨害罪の保護法益は、人の社会生活上の地位における社会的活動の自由です(井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年、p.196、大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、p.150、高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年、p.191参照)

威力業務妨害罪の保護法益は、人の社会的活動の自由

3 主 体

威力業務妨害罪は、威力を用いて、人の社会的活動を妨害する行為を処罰する犯罪で、人の社会的活動を保護するためには、これを妨害する行為を行う者に制限を設ける理由は特にありません

したがって、威力を用いて人の社会的活動を妨害する行為を行った場合には、誰にでも威力業務妨害罪が成立し得ます。

ただし、威力を用いて人の社会的活動を妨害する行為を行う者は、自然人である個人であることが必要で、法人の代表者が、法人の名義を用いて人の社会的活動を妨害する行為を行った場合は、法人ではなく、現実に行為した代表者が処罰されることになります(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、p.81、91、111参照)。これは、法人は観念的な存在で、実際に法人として活動しているのは、法人自体ではなく、自然的・物理的な存在である代表者だからです。

威力業務妨害罪の主体は、自然人である個人

4 客 体

威力業務妨害罪は、威力を用いて人の社会的活動を妨害する行為を行った者を処罰することによって人の社会的活動の自由を保護しようとする犯罪なので、威力業務妨害罪の客体は、人の業務です。

⑴ 人とは

威力業務妨害罪の実行行為である威力を用いて人の社会的活動を妨害する行為を行う者は、自然人でなければなりませんが、威力業務妨害罪の客体である人の業務にいう「人」は、自然人でなければならないというわけではありません。

つまり、威力業務妨害罪の客体である人の業務にいう「人」には、自然人だけでなく、法人(大判昭7.10.10)やその他の団体も含まれます(大判大15.2.15参照)。これは、法人等にも社会的活動は存在するからです。ただし、団体というためには、「単なる人の集合体では足りず、特定の共同目的を達成するための業務主体として社会的に認められる程度の組織性と継続性を有すること(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、pp.91-92)が必要です。例えば、政党その他の政治団体、宗教団体、労働組合、各種学会等が、これに当たります。

団体が威力業務妨害罪による保護を受けるためには、その団体に組織性と継続性が必要

⑵ 業務とは

威力業務妨害罪の客体である人の業務にいう「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいいます(大判大5.6.26、大判大10.10.24)。株式会社の企業活動のような営利・経済的なものである必要はなく、宗教団体の布教活動のような精神的・文化的なものであってもかまいません。

ただし、活動に継続性があることが必要なので、結婚式のような1回的なものは業務に含まれません(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.138参照)。もっとも、それ自体は1回的・単発的・一時的なものであっても、継続性を有する本来の業務遂行の一環として行われたものは、業務に該当します。例えば、政党の結党大会は、それ自体は1回しか行われないものではありますが、継続性を有する政党の業務遂行活動の一環として行われるものなので、これを威力を用いて妨害した場合は、威力業務妨害罪が成立し得ます(大判大10.10.24、東京高判昭37.10.23、大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、pp.94-95参照)

業務には、継続性があることが必要

ア 業務上過失致死傷罪における業務との相違

犯罪の成立に業務性が問題となるものとしては、業務妨害罪のほかに業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)等があります。

刑法211条前段(業務上過失致死傷等)

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

いずれも同じ業務という言葉を用いてはいますが、業務妨害罪にいう業務は、業務上過失致死傷罪等における業務と以下のような違いがあります(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、p.92、団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年、pp.399-400参照)

  • 個人的な娯楽や趣味として行う自動車の運転や狩猟は含まれません。
  • 人の生命・身体に対する危険を伴ったり、そのような危険を防止するものに限定されません。
  • 刑法的保護に値しないものは除かれます。

違法であれば、即業務に当たらないというわけではなく(東京高判昭27.7.3、横浜地判昭61.2.18)、「当該業務の反社会性が本罪による保護の必要性を失わせる程度のものであるか否か」(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.138)を基準として業務に当たるか否かを判断します。

業務妨害罪にいう業務と業務上過失致死傷罪にいう業務とは、イコールではない。

イ 公務と業務

威力業務妨害罪は、威力を用いて人の社会的活動を妨害する行為を処罰する犯罪です。そして、公務も人の社会的活動であることに変わりはありません。

もっとも、刑法は、公務を保護するために、別に公務執行妨害罪(刑法95条1項)を規定しています。

刑法95条1項(公務執行妨害及び職務強要)

公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

そこで、公務を威力を用いて妨害した場合に、威力業務妨害罪が成立するのか、つまり、公務が業務に含まれるかが問題となります。

この点については、以下のようになります。

  公務が業務に含まれるか 公務を威力によって妨害した場合
強制力を行使する権力的公務 公務執行妨害罪も威力業務妨害罪も成立しない。
上記以外の公務
威力業務妨害罪が成立する。

つまり、公務を威力によって妨害した場合に、威力業務妨害罪が成立するか否かは、対象となる公務が強制力を行使する権力的公務か否かによって区別されます(最決平12.2.17)。これは、強制力を行使する権力的公務(例えば、警察官による被疑者の逮捕など)の場合は、暴行・脅迫に至らない妨害行為を自力で排除することができるのに対し、強制力を行使する権力的公務以外の公務(例えば、国会における議事、国公立大学(独立行政法人)における講義、公立病院における事務など)の場合は、そのような妨害行為を自力で排除することができないので、業務妨害罪が成立し得るとすることによって、公務を保護する必要があるからです。

公務が業務に含まれるかは、公務が強制力を行使する権力的なものかどうかによって決まる。

なお、暴行・脅迫は威力に含まれるので、非権力的公務を暴行・脅迫によって妨害した場合は、公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の両罪に該当しますが、公務の公共性から、公務は民間の業務よりも厚く保護されるべきであることを理由として、法条競合として公務執行妨害罪のみが成立するとされています(高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年、p.199、山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年、p.161参照)

公務執行妨害罪は、公務を国家の統治作用の見地から犯罪としたのに対し、公務に係る業務妨害罪は、公務を個人の社会的活動の自由の点から捉えた罪であるから、公務の妨害があり、それが公務執行妨害罪を構成する場合は、公務執行妨害罪と業務妨害罪の両罪が成立し、観念的競合(刑法54条1項前段)となるという説もあります(大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、p.152参照)

非権力的公務を暴行・脅迫によって妨害した場合は、公務執行妨害罪のみが成立する。

5 行 為

威力業務妨害罪の行為は、威力を用いて人の業務を妨害することです。

⑴ 威 力

威力とは、犯人の威勢、人数及び四囲の状勢からみて、人の自由意思を制圧するに足りる勢力をいい(最判昭28.1.30)、暴行・脅迫よりも広い概念で、「社会的地位や経済的優越による権勢を利用する場合も含まれ」(大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、p.155)ます。威力は、「必ずしも直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要し」(最判昭32.2.21)ないので、被害者である業務者自身に対するものに限られません。また、現実に自由意思が制圧されたことも必要ありません。

例えば、「店の前で集団でたむろして客の入店を妨げる場合」(高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年、p.202)などです。

判例で、威力に当たるとされたものとしては、以下のようなものがあります。

  • 満員の営業食堂にしま蛇20匹をまき散らした場合(大判昭7.10.10)
  • 営業中の商家の表側のほとんどに板囲いをして室内を暗黒にした場合(大判大9.2.26)
  • 競馬場に平くぎを1(たる)分まき散らした場合(大判昭12.2.27)
  • 訴訟記録等の入った弁護士のかばんを力ずくで奪い取って自宅に隠匿した場合(最決昭59.3.23
  • 事務机に猫の死がいを入れ、被害者に発見させた場合(最決平4.11.27
  • 大声や怒号を発して卒業式の遂行を妨害した場合(最判平23.7.7) など

⑵ 威力と偽計の区別

威力と偽計は、必ずしも明確に区別することはできませんが、一般的には、「行為の態様又は結果のいずれかが公然・誇示的、可視的であれば『威力』であり、これらが非公然・隠密的、不可視的であれば『偽計』である」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.719)とされています。

つまり、「障害物が目にみえる状態にあったかどうか、犯行が公然と行なわれたか隠密に行なわれたかなどによって区別され(団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年、p.407)ことになります。

威力と偽計は、行為又は結果が、公然・誇示的・可視的であるかどうかによって区別される。

⑶ 妨 害

妨害とは、業務の執行自体の妨害に限らず、広く業務の経営を阻害する一切の行為をいいます(大判昭8.4.12)。

6 結 果

威力業務妨害罪を規定している刑法234条は「前条の例による。」としており、前条である刑法233条後段は業務を「妨害した」と規定していますが、現実に妨害の結果が発生することは必要ではなく、業務の執行又は経営を阻害するおそれのある状態を発生させれば足ります(大判昭11.5.7)。したがって、威力業務妨害罪は、抽象的危険犯です。

威力業務妨害罪は、抽象的危険犯

具体的危険犯とする説や、侵害犯とする説もあります。

7 主観的要件

威力業務妨害罪は故意犯なので、同罪が成立するためには、人の自由意思を制圧するに足りる勢力を行使することの認識及びその結果人の業務を妨害するおそれのある状態を作り出すことの認識・認容といった故意があることが必要となります。

もっとも、人の業務を妨害する目的を持っている必要はありません(大阪高判昭39.10.5)。

威力業務妨害罪は、目的犯ではない。

8 未遂・既遂

威力業務妨害罪には、未遂を処罰する規定がないので、処罰されません(刑法44条)。

刑法44条(未遂罪)

未遂を罰する場合は、各本条で定める。

また、威力業務妨害罪は抽象的危険犯なので、威力を用いて人の業務を妨害するおそれのある状態を作り出す行為を行えば、既遂に達します。

例えば、甲が、食料品店Aで食品を購入したところ、購入した食品が賞味期限切れであったことに憤慨し、食料品店Aの店舗前の道路で「この店は賞味期限切れの商品を客に買わせるのか」と大声でクレームを叫んだ場合において、その当時、食料品店Aの店舗内には1人も客がおらず、通行人もいなかったことから、食料品店Aの営業に支障は生じなかったとしても、食料品店Aにいつ客が来るか、また、通行人が現れるかは分からず、そのような状況になれば、食料品店Aの営業に支障が生じるおそれは十分にあるので、甲による食料品店Aに対する威力業務妨害罪は、既遂に達することになります。

supermarket

威力業務妨害罪に未遂はない。

9 罪数・他罪との関係

⑴ 威力業務妨害罪の個数

威力業務妨害罪の保護法益は人の社会的活動の自由なので、対象となる業務の数を基準として、つまり、被害を受けた業務の数に応じた威力業務妨害罪が成立します。

例えば、1個の行為で2人の業務を妨害した場合は、2個の威力業務妨害罪が成立して観念的競合(刑法54条1項前段)となります(大判昭9.5.12)。

刑法54条1項前段(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合等の処理)

1個の行為が2個以上の罪名に触れ……るときは、その最も重い刑により処断する。

威力業務妨害罪の個数は、業務の数を基準とする。

⑵ 偽計業務妨害罪との関係

偽計と威力を用いて1人の業務を妨害した場合には、刑法233条後段と234条の両条に当たる単純一罪となります(東京高判昭27.7.3、福岡高判昭33.12.15)。

刑法233条後段(信用毀損及び業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、……業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

⑶ 暴行罪・脅迫罪との関係

威力の内容が暴行罪(刑法208条)・脅迫罪(同法222条)に当たる場合は、威力業務妨害罪とは異なる法益を侵害しているので、威力業務妨害罪と暴行罪・脅迫罪が成立して観念的競合となります(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年、p.244、前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.723参照)

刑法208条(暴行)

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法222条(脅迫)

1項
 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

⑷ 恐喝罪との関係

業務妨害の行為が恐喝の手段として行われた場合は、業務妨害罪と恐喝罪(刑法249条)が成立し、(けん)連犯(刑法54条1項後段)となります(大判大2.11.5)。

刑法249条(恐喝)

1項
 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項
 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法54条1項後段(1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合等の処理)

犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

10 確認問題

⑴ 令和4年度 司法試験 短答式試験 刑法 第4問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑵ 令和3年度 司法試験 短答式試験 刑法 第8問

学生A、B及びCは、次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑥までの( )内に後記【語句群】から適切な語句を入れた場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。なお、①から⑥までの( )内にはそれぞれ異なる語句が入る。

【会 話】

学生A.私は、公務も公務員としての個人の社会的活動であり、その性質に関わりなく業務妨害罪によって保護されるべきなので、(①)と考えます。

学生B.私は、国家的法益と個人的法益では罪質が違うので、(②)と考えます。

学生C.B君の見解では、(③)ような威力による非権力的公務に対する妨害のときに業務妨害罪が成立せず、非権力的公務の保護が不十分との批判がありますね。このような批判を踏まえて、私は、(④)と考えます。

学生A.C君の見解によると、(⑤)ような暴行による非権力的公務に対する妨害については、いかなる犯罪が成立するのでしょうか。

学生C.その場合には、業務妨害罪と公務執行妨害罪が成立すると考えます。

学生B.C君の見解に対しては、(⑥)との批判がありますね。

【語句群】

a.全ての公務が業務妨害罪の対象となる

b.強制力を行使する権力的公務以外の公務に限って業務妨害罪の対象となる

c.公務は一切業務妨害罪の対象とならない

d.威力による非権力的公務に対する妨害のときに処罰の間隙が生じてしまう

e.逮捕行為や強制執行のように、自力で抵抗を排除し得る機能を付与されている場合まで威力に対する保護を認めることになる

f.公務は公共の福祉を目的とするので、民間の業務より厚く保護されるべきである

g.公務に限って二重に保護する必要はない

h.市役所の窓口業務を大声を上げて妨害した

i.警察官による適法な捜索差押えの際、多数名で怒号しながら入口を塞いで警察官が捜索場所に立ち入るのを妨害した

j.公立学校の入学試験監督員である教員を拳で殴って試験会場に入るのを阻止した

1.①a ②c ③j
2.①a ④b ⑥e
3.②c ③h ④a
4.③h ⑤i ⑥g
5.④b ⑤j ⑥g

法務省「令和3年司法試験問題」短答式試験(刑法)

ア 解 説

完成文は、以下のようになります。

学生A.私は、公務も公務員としての個人の社会的活動であり、その性質に関わりなく業務妨害罪によって保護されるべきなので、(①a.全ての公務が業務妨害罪の対象となる※1と考えます。

学生B.私は、国家的法益と個人的法益では罪質が違うので、(②c.公務は一切業務妨害罪の対象とならない※2と考えます。

学生C.B君の見解では、(③h.市役所の窓口業務を大声を上げて妨害した)ような威力による非権力的公務に対する妨害のときに業務妨害罪が成立せず※3、非権力的公務の保護が不十分との批判がありますね。このような批判を踏まえて、私は、(④b.強制力を行使する権力的公務以外の公務に限って業務妨害罪の対象となる)と考えます※4

学生A.C君の見解によると、(⑤j.公立学校の入学試験監督員である教員を拳で殴って試験会場に入るのを阻止した)ような暴行による非権力的公務に対する妨害※5については、いかなる犯罪が成立するのでしょうか。

学生C.その場合には、業務妨害罪と公務執行妨害罪が成立すると考えます。

学生B.C君の見解に対しては、(⑥g.公務に限って二重に保護する必要はない)との批判がありますね※6

  1. 学生Aは、公務は、その性質に関わりなく、業務妨害罪によって保護されるべきと発言しています。これは、全ての公務が、業務妨害罪にいう業務に含まれるという趣旨です。したがって、①にはがいります。
  2. 学生Bは、国家的法益と個人的法益とは罪質が異なると発言しています。これは、公務執行妨害罪と業務妨害罪とは保護法益が異なることから、公務が業務に含まれることはないという趣旨です。したがって、②にはが入ります。
  3. ③には、h~jのうち、非権力的公務を威力によって妨害した事例が入ります。h~jにおける妨害の対象と手段の組合せは、下記の表(【妨害の対象と手段】)のようになります。したがって、③にはが入ります。
  4. 学生A~Cは、それぞれ、a~cのいずれかの見解を採っています。そして、学生Aは見解aを、学生Bは見解cを採っていることから、学生Cは見解bを採っていることになります。したがって、④にはが入ります。
  5. ⑤には、(③にhが入ることから、)i又はjのうち、非権力的公務を暴行によって妨害した事例が入ります。そして、それに該当するのはjです(下記の表(【妨害の対象と手段】)参照)。したがって、⑤にはが入ります。
  6. ⑥には、非権力的公務を暴行によって妨害した場合に、業務妨害罪と公務執行妨害罪の2罪が成立するとする見解に対する批判が入ります。したがって、⑥にはが入ります。
【妨害の対象と手段】
  妨害の対象 妨害の手段
非権力的公務 威 力
権力的公務 威 力
非権力的公務 暴 行

イ 解 答

①~⑥には、それぞれ、

①a ②c ③h ④b ⑤j ⑥g

が入ります。

したがって、解答はということになります。

⑶ 令和2年度 司法試験 短答式試験 刑法 第12問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑷ 令和元年度 司法試験 短答式試験 刑法 第12問

業務妨害罪に関する次の【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち、誤っているものはどれか。

【見 解】

業務妨害罪は人の社会的活動の自由を保護法益とするものであるが、公務も人の社会的活動にほかならないから、公務の性質いかんにかかわらず、同罪によって保護されると解するのが妥当である。

【記 述】

1.この【見解】に対しては、公務執行妨害罪という国家的法益に対する罪と業務妨害罪のような個人的法益に対する罪とを安易に混同するものであるとの批判が可能である。

2.この【見解】に基づけば、公務員と共に公務に従事する非公務員に暴行を加えてその公務を妨害した場合、威力業務妨害罪が成立すると考えることが可能である。

3.この【見解】に対しては、逮捕行為のような強制力を行使する権力的公務は、暴行にも脅迫にも至らない手段による妨害を受けた時にそれを自力で排除し得るから、そのような公務まで業務として保護する必要はないとの批判が可能である。

4.この【見解】に基づけば、公務が暴行又は脅迫によって妨害された場合、公務執行妨害罪は業務妨害罪の特別法という関係にあるから前者のみが成立すると考えることが可能である。

5.この【見解】に対しては、威力や偽計による公務の妨害は公務執行妨害罪にも業務妨害罪にも当たらないこととなり、公務が業務に比して刑法上軽い保護しか受けられないという不都合があるとの批判が可能である。

法務省「令和元年司法試験問題」短答式試験(刑法)

ア 解 説

【見解】について

【見解】は、公務の性質いかんに関わらず、全ての公務が業務妨害罪の対象となるというものです。したがって、この【見解】によれば、以下のような結論となります。

  • 公務を威力や偽計によって妨害した場合
    ➡ 偽計又は威力業務妨害罪が成立する。
  • 公務を暴行又は脅迫によって妨害した場合
    ➡ 公務執行妨害罪及び威力業務妨害罪が成立し、観念的競合となる、又は、法条競合として公務執行妨害罪のみが成立する。
1.について

【見解】に対しては、公務も公務員としての個人の社会的活動にほかならないからといって、全ての公務を業務妨害罪にいう業務に含まれるとすることは、「公務執行妨害罪という純然たる国家法益に対する罪と……(業務妨害)罪のような個人法益に対する罪とを安易に混同するものであるとの批判があり」(大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、p.152)ます。

したがって、1.は正しいです。

2.について

【見解】は、全ての公務が業務妨害罪の対象となるというものなので、非公務員による公務も業務妨害罪にいう業務に含まれ、また、威力には暴行も含まれるので、公務員と共に公務に従事する非公務員に暴行を加えてその公務を妨害した場合、威力業務妨害罪が成立します。

したがって、2.は正しいです。

3.について

【見解】に対しては、「逮捕行為のように自力で抵抗を排除しうる機能を付与されている場合まで威力や偽計に保護を認めるのは妥当でない」(大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、p.152)という批判があります。

したがって、3.は正しいです。

4.について

【見解】によれば、全ての公務が公務執行妨害罪及び業務妨害罪の客体となるので、暴行や脅迫によって公務の執行が妨害された場合には、公務執行妨害罪及び(威力)業務妨害罪の両罪が成立し、観念的競合となると考えることもできますが、「業務妨害罪は一般法であり、公務執行妨害罪は特別法であるから、公務執行妨害罪が成立するときは法条競合により同罪のみが成立するという見解も主張されています(法条競合説)。」(大塚裕『刑法各論の思考方法』第3版、早稲田経営出版、2010年、p.426)

したがって、4.は正しいです。

5.について

【見解】によれば、「すべての公務が、公務執行妨害罪および業務妨害罪の客体になり、威力や偽計によって公務の執行が妨害された場合には(公務執行妨害罪が成立しませんので)業務妨害罪のみが成立します」(大塚裕『刑法各論の思考方法』第3版、早稲田経営出版、2010年、p.426)

したがって、5.は誤りです。

イ 解 答

1.~5.は、それぞれ、「正しい」「正しい」「正しい」「正しい」「誤り」となります。

したがって、解答はということになります。

⑸ 平成30年度 司法試験 短答式試験 刑法 第18問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑹ 平成29年度 司法試験 短答式試験 刑法 第10問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑺ 平成27年度 司法試験 短答式試験 刑法 第2問

業務妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し、誤っているものを2個選びなさい。

1.業務妨害罪における「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいい、営利を目的とするものでなくても「業務」に含まれる。

2.業務妨害罪における「業務」は、業務自体が適法なものであることを要するから、行政取締法規に違反した営業行為は「業務」には当たらない。

3.強制力を行使しない非権力的公務は、公務執行妨害罪における「公務」に当たるとともに業務妨害罪における「業務」にも当たる。

4.威力業務妨害罪における威力を「用いて」といえるためには、威力が直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要する。

5.業務妨害罪における「妨害」とは、現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず、業務を妨害するに足りる行為があることをもって足りる。

法務省「平成27年司法試験問題」短答式試験(刑法)

ア 解 説

1.について

業務妨害罪における業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいい(大判大5.6.26、大判大10.10.24)、営利・経済的なものである必要はなく、精神的・文化的なものであってもかまいません

したがって、1.は正しいです(4⑵参照)。

2.について

業務妨害罪における業務は、必ずしも適法であることは必要なく、刑法上保護に値するものであれば足ります

したがって、2.は誤りです(4⑵ア参照)。

3.について

公務が業務妨害罪にいう業務に含まれるかは、強制力を行使する権力的公務かどうかによります(最決平12.2.17)。つまり、

  • 強制力を行使する権力的公務
    ➡ 業務に含まれない
  • 強制力を行使しない非権力的公務
    ➡ 業務に含まれる

ということになります。

したがって、3.は正しいです(4⑵イ参照)。

4.について

威力は、必ずしも、直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しません(最判昭32.2.21)。

したがって、4.は誤りです(5⑴参照)。

5.について

業務妨害罪は抽象的危険犯なので、同罪の成立には、実際に業務が妨害されたという結果が発生することは必要ではありません。

したがって、5.は正しいです(参照)。

イ 解 答

1.~5.は、それぞれ、「正しい」「誤り」「正しい」「誤り」「正しい」となります。

したがって、解答は及びということになります。

⑻ 平成19年度 新司法試験 短答式試験 刑事系科目 第11問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑼ 平成13年度 司法試験 第二次試験 短答式試験 第58問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

⑽ 平成8年度 司法試験 第二次試験 短答式試験 第54問

  • 詳細については「こちら」を参照してください。

11 参考文献

  • 井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年
  • 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第12巻)、青林書院、2019年
  • 大塚裕『刑法各論の思考方法』第3版、早稲田経営出版、2010年
  • 大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年
  • 高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年
  • 団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年
  • 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年
  • 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年
  • 山口厚『刑法各論』第2版、有斐閣、2010年
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