Contents
1 意 義
脅迫罪とは、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知する行為を処罰する犯罪です。
2 保護法益
脅迫罪の保護法益は、意思決定の自由ⓘです(大阪高判昭61.12.16)。
これは、自分自身又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加えることを告知された場合には、「社会生活を送る上で不安が生じて、心配なくのびのびと判断し行動することができにくくなるおそれがある」(井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年、p.140)からです。
脅迫罪の保護法益は、意思決定の自由
3 主 体
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して、人の自由な意思決定を制約するおそれを生じさせる行為を処罰する犯罪で、人の意思決定の自由を保護するためには、これを害する行為を行う者に制限を設ける理由は特にありません。
したがって、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して、人の自由な意思決定を制約するおそれを生じさせる行為を行った場合には、誰にでも脅迫罪が成立し得ます。
脅迫罪の主体は、特に制限されていない。
4 客 体
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知する行為を処罰する犯罪なので、脅迫罪の客体は人です。
⑴ 法 人
脅迫罪の客体は人ですが、ここにいう人は自然人に限定され、法人は含まれませんⓘ。
これは、以下の理由によります(大阪高判昭61.12.16)。
- 脅迫罪は、刑法の体系上、生命及び身体に対する罪である殺人の罪及び傷害の罪に引き続いて、身体の自由に対する罪として、逮捕・監禁の罪及び略取・誘拐の罪と並んでその間に置かれている。
- 脅迫罪の保護法益は、人の意思決定の自由である。
- 刑法222条(脅迫)は、「生命、身体」(1項)、「親族」(2項)と規定している。
なお、法人の法益に対する加害の告知が、ひいてはその代表者・代理人等として現にその告知を受けた自然人自身の生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害の告知に当たると評価できるときは、その自然人に対する脅迫罪が成立し得ます。
脅迫罪の客体は自然人に限定され、法人は含まれない。
⑵ 意思能力がない者
脅迫罪の保護法益は意思決定の自由なので、脅迫罪の客体は、意思能力がある人でなければなりません。意思能力は高度なものである必要はなく、脅迫の内容となる言動の意味を理解することができる程度であれば足ります。
したがって、以下のような者も、脅迫罪の客体に含まれます。
- 幼児
- 知的障害者
- 精神病者 など
脅迫罪の客体である人は、意思能力を有していなければならない。
⑶ 不特定人
脅迫罪は、個人的法益に対する罪で、脅迫行為には、その相手方の存在が前提とされなければならないので、脅迫行為の相手方が全く特定しない不特定人は、脅迫罪の客体には含まれません(大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第11巻)、青林書院、2014年、p.451参照)。
加害の告知の相手方が全く特定していない場合は、脅迫罪は成立しない。
5 行 為
脅迫罪の行為は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫することです。
⑴ 刑法上の脅迫
刑法で脅迫という言葉は、脅迫罪に限らず様々な犯罪で用いられていて、それぞれその意味内容(=脅迫の対象や程度)は異なります。
刑法上の脅迫は、一般に人に畏怖心(=恐怖心)を生じさせる害悪の告知をいい、以下の3種に分類されます。
種 類 | 意 義 | 具体例 |
①広義の脅迫 | 人に畏怖心を生じさせるに足りる害悪を告知することの一切 | ・公務執行妨害罪(刑法95条1項) ・加重逃走罪(同法98条) ・逃走援助罪(同法100条2項) ・騒乱罪(同法106条) ・多衆不解散罪(同法107条) ・恐喝罪(同法249条) |
②狭義の脅迫 | 告知される害悪の種類が特定され、また、加害の対象が限定されるもの |
・脅迫罪(同法222条) ・強要罪(同法223条) |
③最狭義の脅迫 | 人の抵抗を著しく困難にする程度の害悪の告知 | ・不同意性交等罪(同法177条) |
人の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知 | ・強盗罪(同法236条) ・事後強盗罪(同法238条) |
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井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年、pp.140-141、大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第3版(第11巻)、青林書院、2014年、pp.448-449参照 |
⑵ 脅迫罪における脅迫の意義
脅迫罪における脅迫は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知してなされることが要件となっています。つまり、告知される害悪の対象は何でもよいのではなく、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に限定されています。
したがって、脅迫罪における脅迫は、狭義の脅迫に当たります。
脅迫罪における脅迫は、狭義の脅迫
⑶ 加害の対象
脅迫罪における脅迫行為による害悪の告知の対象は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に限定されます(限定列挙)。
したがって、例えば、
- 雇人に対して、その雇い主や上司に害悪を加える旨を告知した場合
- 銀行強盗が、銀行内にいた顧客を人質にとって、「金を出さないとこいつらを殺すぞ。」と言って銀行の窓口にいる行員を脅した場合
は、雇人や行員に対して脅迫したことにはなりません(高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年、p.92、西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.76参照)。
脅迫罪における害悪の告知の対象は、限定列挙
脅迫罪における害悪の告知の対象となる親族は、罪刑法定主義の見地から、民法725条の規定により、
- 6親等内の血族
- 配偶者
- 3親等内の姻族
に限定されます。
次に掲げる者は、親族とする。
1号
6親等内の血族
2号
配偶者
3号
3親等内の姻族
したがって、内縁関係にある者や、法律上の手続を完了していない養親子関係にある者は含まれません。
親族の範囲は、民法の規定による。
⑷ 告知の内容
告知の内容は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨です。
害を加「える」なので、告知される害悪は、将来のものでなければならず、また、告知者が害悪の発生・不発生を左右できるものであると一般人が感じるものであることが必要です。
例えば、以下のような場合は、脅迫には当たりません(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.77参照)。
- 天災や、天罰が下るなどの吉凶禍福の予告をした場合
➡ 告知者が、その発生・不発生を左右することはできない。 - 既に時限爆弾を仕掛けたことを告げた場合
➡ 時限爆弾を仕掛けたことは過去の事実
告知される害悪は、将来のものであって、告知者が、その発生・不発生を左右できるものであると一般人が感じるものでなければならない。
また、告知される害悪の内容は、「相手方の性質ⓘおよび四囲の状況から判断して、一般に人を畏怖させるに足りる程度のもの」(大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年、pp.93-94)でなければなりません。
このように、脅迫罪における脅迫に当たるかどうかは、害悪の告知を受けた個々人を基準とするのではなく、一般人の観点から客観的に判断されます。
したがって、
- 告知を受けた人が豪胆な者であって現実に畏怖しなくても、一般人ならば通常畏怖するようなものである場合
脅迫に当たる。 - 告知を受けた者が小心者や迷信家であって現実に畏怖したとしても、一般人ならば通常畏怖しないようなものである場合
脅迫に当たらないⓘ。
ということになります。
脅迫に当たるかどうかは、一般人を基準として客観的に判断する。
⑸ 害悪の違法性・犯罪性
告知される害悪の内容は、それ自体が犯罪を構成するものである必要はありません。
例えば、それ自体は適法な行為である告訴権の行使について、真実告訴する意思がないのに、相手方を畏怖させるために告訴する旨の通知をした場合は、脅迫に当たります(大判大3.12.1)。
告知される害悪の内容は、犯罪でなくてもよい。
⑹ 告知の方法
害悪を告知する方法に制限はないので、一般人を畏怖させるに足りる程度の害悪を告知する行為と認められる何らかの手段を施して、それによって相手方が知ったという事実があれば足ります(大判大8.5.26、最判昭26.7.24)。
具体的には、
- 文書
例えば、町村合併をめぐる対立抗争中に、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」という趣旨のはがきを郵送して相手方がこれを受け取った場合(最判昭35.3.18)などです。 - 口頭
例えば、「お前をぶっ殺す」とか「妹の腕をへし折ってやる」などと通告する場合(井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年、p.139参照)などです。 - 態度
例えば、凶器を示したうえで「金を出せ」という場合(西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年、p.78参照)などです。 - 第三者を介する場合
例えば、駐在所付近で、「売国奴の番犬、A巡査をたたき出せ」と題し、「来るべき人民裁判によって明らかに裁かれ処断されるであろう」等と記載したビラを付近の住民等に頒布して、住民を通じて同巡査に入手させた場合(最判昭29.6.8)などです。 - インターネットの掲示板に書き込む場合(東京高判平20.5.19)
などのいずれの方法によってもかまいません。
また、明示的な方法によらずに、黙示的な方法によってもかまいません。
黙示的な方法の具体例としては、
- 市会の公金の分配に関する決定について市会議長に再考を促すための決議書と議長の名前を記入した位牌を、議長の内縁の妻を介して交付した場合(大判昭8.11.20)
- 「お前を恨んでいる者は俺だけじゃない。何人いるか分からない。駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させあなたを殺すと言っている者もある」、「俺の仲間はたくさんいてそいつらも君をやっつけるのだと相当意気込んでいる」などと申し向ける場合(最判昭27.7.25)
などがあります。
害悪の告知の方法には、制限はない。
6 結 果
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知することが要件となっていますが、それが意思決定に影響を及ぼしたことは要件になっていません。
したがって、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知すれば成立し、相手方が現実に畏怖したなどの、何らかの結果が発生することは必要ではありません(大判明43.11.15)。
脅迫罪は抽象的危険犯
7 主観的要件
脅迫罪は故意犯なので、害悪を告知することの認識及びこれを相手方が知るであろうという予見といった故意が必要となります。
なお、「告知する害悪が他人を畏怖させるに足りる程度のものであることの認識は不要」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.672)です。
8 未遂・既遂
脅迫罪には、未遂を処罰する規定がないので、未遂は処罰されません(刑法44条)。
未遂を罰する場合は、各本条で定める。
告知とは、告げて知らせることをいうので、脅迫罪が既遂となるためには、害悪が相手方に伝わる必要があり、害悪を告げる行為をしたけれども、相手方に伝わらなかった場合は、未遂として不可罰になります。
脅迫罪に未遂はない。
9 罪数・他罪との関係
⑴ 脅迫罪の個数
脅迫罪の保護法益は意思決定の自由で、意思決定の自由は人ごとに存在するので、被害者の数を基準として、つまり、被害者の数に応じた脅迫罪が成立します。
具体的には、
- 同時に数名を脅迫した場合
数罪が成立し、観念的競合(刑法54条1項前段)となります(東京高判昭30.10.28)。 - 同一機会に同一人に対し、2種の法益に害を加える旨を告知した場合
1罪となります(仙台高判昭33.4.10)。
1個の行為が2個以上の罪名に触れ……るときは、その最も重い刑により処断する。
脅迫罪の個数は、被害者の数を基準とする。
⑵ 他罪との関係
ア 脅迫が構成要件要素となっている犯罪との関係
公務執行妨害罪(刑法95条1項)、騒乱罪(同法106条)、不同意性交等罪(同法177条1項)、強盗罪(同法236条1項)など、脅迫が構成要件要素となっている犯罪では、脅迫罪の脅迫に相当する行為がそれらの犯罪の手段として行われたときは、脅迫行為はそれらの犯罪に吸収され、別に脅迫罪は成立しません。
脅迫罪と脅迫を構成要件要素とする犯罪とは、吸収関係にある。
イ 監禁罪との関係
脅迫が監禁の手段としてなされた場合は、監禁罪(刑法220条)のみが成立します。
ただし、例えば、監禁中の被害者の言動に憤激して脅迫した場合のように、監禁とは別個の動機・目的に基づいて脅迫した場合は、監禁罪のほかに脅迫罪も成立し、併合罪となります(最判昭28.11.27)。
脅迫罪が監禁罪に吸収されるかは、脅迫が監禁の手段としてなされたかどうかで決まる。
ウ 暴行罪との関係
脅迫行為を行う場合には、暴行行為を伴うことが多いですが、脅迫罪のほかに暴行罪(刑法208条)も成立するかどうかは、「脅迫行為ないしは脅迫内容が暴行に対して独立の意味を有するかどうかによって決せられ」(前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年、p.626)ます。
具体的には、以下のようになります。
暴行罪のみが成立する場合 | ・暴行を加える旨を告知したうえで、殴打した場合(大判大15.6.15) など |
暴行罪のほかに脅迫罪も成立する場合 | ・殴打した後に、殺害を告げて拳銃で脅迫した場合(大判明44.11.13) ・殺すぞと脅迫した後に、殺意なく暴行を加えた場合(大判昭6.12.10) ・殴打した後に、川へ投げ込むと脅迫した場合(最判昭30.11.1) など |
脅迫の内容が暴行と異なる場合など、脅迫行為・内容が暴行に対して独立の意味を有する場合は、暴行罪と脅迫罪が共に成立する。
10 確認問題
平成24年度 司法試験 短答式試験 刑事系科目 第4問
次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、甲に乙又は乙社に対する脅迫罪が成立するものの組合せは、後記1から7までのうちどれか。
ア.甲は、乙に対し、乙の妻の実兄である丙を殺害する旨告知し、乙は丙が殺されるかもしれない旨畏怖した。
イ.甲は、乙株式会社総務課長丙に対して、乙社の商品不買運動を行って乙社の営業活動を妨害する旨告知し、丙は、乙社の営業活動が妨害されるかもしれない旨畏怖した。
ウ.甲は、インターネット上の掲示板に乙が匿名で行った書き込みに対し、同掲示板に「そんな投稿をするやつには天罰が下る。」旨の書き込みを行い、これを閲読した乙は、小心者だったことから、何か悪いことが起こるかもしれない旨畏怖した。
エ.甲は、口論の末、乙に対し、「ぶっ殺すぞ。」と怒号した。この様子を見ていた周囲の人たちは、甲が本当に乙を殺害するのではないかと恐れたが、乙は剛胆であったため畏怖しなかった。
オ.甲は、単身生活の乙に対し、「乙宅を爆破する。」旨記載した手紙を投函し、同手紙は乙方に配達されたが、同手紙には差出人が記載されていなかったことから、不審に思った乙は同手紙を開封しないまま廃棄した。
1.ア イ 2.ア ウ 3.ア エ 4.イ エ 5.イ オ
法務省「平成24年司法試験問題」短答式試験(刑事系科目)
6.ウ エ 7.ウ オ
⑴ 解 説
ア.について
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告知することによって成立します。そして、親族とは、6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族をいいます。
丙は、乙の配偶者の実兄なので、乙の2親等の姻族に当たります。
また、甲は、丙を殺害する旨を告知しているので、丙の生命に害を加える旨を告知していることになります。
したがって、甲は、乙の親族の生命に害を加える旨を乙に告知していることになります。
以上から、甲には、乙に対する脅迫罪が成立することになります(5⑶参照)。
イ.について
脅迫罪の客体は人で、これには法人は含まれません。
そして、甲は、乙社という法人の営業活動を妨害する旨を告知しているにすぎません。
したがって、甲には乙社にする脅迫罪は成立しません(4⑴参照)。
ウ.について
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知することによって成立しますが、告知される害悪の内容は、告知者が害悪の発生・不発生を左右できるものであると一般人が感じるものであることが必要です。
また、相手方の性質及び四囲の状況から判断して、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならず、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものかどうかは、告知を受けた個々人を基準とするのではなく、一般人の観点から客観的に判断されます。つまり、告知を受けた者が小心者や迷信家であって現実に畏怖したとしても、一般人ならば通常畏怖しないようなものである場合は、告知者が、相手方が小心者や迷信家であることを特に知って告知したときを除いて、害悪の告知に当たりません。
甲は、「天罰が下る」旨を告知していますが、天罰のような吉凶禍福は、一般に人がその発生・不発生を左右できるようなものであるとは考えられていません。また、甲は、乙が小心者であることを特に知っているわけでもありません。
したがって、甲には乙に対する脅迫罪は成立しません(5⑷参照)。
エ.について
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、一般に人が畏怖するに足りる程度に害を加える旨を告知することによって成立します。
そして、一般人が畏怖するに足りる程度かどうかは、告知を受けた個々人を基準とするのではなく、一般人の観点から客観的に判断されます。つまり、告知を受けた人が豪胆な者であって現実に畏怖しなかったとしても、一般人ならば通常畏怖するようなものである場合は、害悪の告知に当たります。
甲は、「ぶっ殺すぞ。」と乙に対して言っているので、乙の生命に対して害を加える旨を告知しているといえます。また、その周囲にいた人達が、甲の言動を聞いて畏怖しているので、甲の発言は、一般に人が畏怖するに足りる程度の害悪の告知ということができます。
したがって、甲には乙に対する脅迫罪が成立します(5⑷参照)。
オ.について
脅迫罪は、他人又はその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、一般に人が畏怖するに足りる程度に害を加える旨を告知することによって成立します。
そして、告知とは、告げて知らせることをいうので、害を加える旨が相手方に届いて、相手方がこれを認識しなければなりません。つまり、害悪を告げる行為をしたけれども、相手方に伝わらなかった場合は、未遂として不可罰になります。
甲は、乙宅を爆破するという乙の財産に対して害を加える旨の手紙を乙に宛てて送達していますが、乙は手紙を開封せずに廃棄しているので、甲による乙に対して害悪を告げる行為は、乙に伝わっていません。
したがって、甲は、乙に対して害悪を告知したことにはなりません。
以上から、甲には、乙に対する脅迫罪は成立しません(8参照)。
⑵ 解 答
甲に、乙又は乙社に対する脅迫罪が成立するのは、ア及びエです。
したがって、解答は3ということになります。
11 参考文献
- 井田良『講義刑法学・各論』第2版、有斐閣、2020年
- 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀編『大コンメンタール刑法』第三版(第11巻)、青林書院、2014年
- 大谷實『刑法講義各論』新版第5版、成文堂、2019年
- 高橋則夫『刑法各論』第3版、成文堂、2018年
- 団藤重光編『注釈 刑法⑸ 各則⑶』有斐閣、1968年
- 西田典之著、橋爪隆補訂『刑法各論』第7版、弘文堂、2018年
- 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邊一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編『条解 刑法』第4版、弘文堂、2020年