Contents
総 論
違法性
違法性阻却事由
正当行為
- 最大判昭25.11.25(山田鋼業事件) 昭和23(れ)第1049号:窃盜 刑集4巻11号2257頁
労働組合法1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法35条の適用があることを規定しているのではなく、ただ労働組合法所定の目的達成のためになした正当な行為についてのみ適用を認めているにすぎず、どのような争議行為を正当とするかは、具体的に個々の争議について、争議の目的並びに争議手段の両面にわたって、現行法秩序全体との関連において決する。 - 最大判昭24.5.18 昭和22年(れ)第39号:脅迫 刑集3巻6号772頁
自救行為とは、例えば、盜犯の現場において被害者が贓物を取り返すような、ある一定の權利を有する者が、これを保全するため官憲の手を待つ暇がなく、自ら直ちに必要な限度で適当な行為をすることをいう。
緊急避難
- 最大判昭24.5.18 昭和22年(れ)第39号:脅迫 刑集3巻6号772頁
緊急避難(刑法37条1項)にいう「現在の危難」とは、現に危難の切迫していることを意味し、「やむを得ずにした」とは当該避難行為をする以外には他に方法がなく、そのような行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味する。
刑 罰
死 刑
- 最大判昭23.3.12 昭和22年(れ)第119号:尊属殺、殺人、死体遺棄 刑集2巻3号191頁
死刑そのものは憲法36条にいう「残虐な刑罰」には当たらず、刑法の死刑の規定は憲法に反しない。 - 最大判昭30.4.6(帝銀事件) 昭和26年(れ)第2518号:強盗殺人、同未遂、殺人予備、私文書偽造、偽造私文書行使、詐欺、詐欺未遂 刑集9巻4号663頁
現在我が国が採用している方法による絞首刑は、憲法36条にいう「残虐な刑罰」に当たらない。 - 最判昭58.7.8(永山事件) 昭和56年(あ)第1505号:窃盜、殺人、強盗殺人、同未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反 刑集37巻6号609頁
死刑制度を存置する現行法制の下では、①犯行の罪質、②動機、③態様(殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性)、④結果の重大性(殊に殺害された被害者の数)、⑤遺族の被害感情、⑥社会的影響、⑦犯人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許される。 - 最判平18.6.20(光市母子殺害事件) 平成14年(あ)第730号:殺人、強姦致死、窃盗被告事件 集刑289号383頁
①犯行の罪質、②動機、③態様(殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性)、④結果の重大性(殊に殺害された被害者の数)、⑤遺族の被害感情、⑥社会的影響、⑦犯人の年齢、⑧前科、⑨犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択するほかない。
科 料
- 名古屋高判昭26.11.30 昭和26年(う)第1474号: 賭博被告事件 高刑集4巻13号1996頁
併合罪の関係にある罪ついて2個以上の科料を併科する場合において、各罪に科した科料金額が判決理由において明示され、又はそれをうかがい知ることができるときは、判決主文には、科料金額を格別に表示することなく、合計額を一括して表示することができる。
没 収
- 大判明45.4.2
没収物件が、刑法19条1項各号のいずれに該当するかは、その刑が科せられるべき罪質によって定まるので、通貨偽造準備のために供した物件は、通貨偽造準備罪に問擬される場合は組成物件として刑法19条1項1号に該当するが、偽造通貨行使罪に問擬される場合は、通貨偽造準備罪は偽造通貨行使罪に包含されるので、供用物件として刑法19条1項2号に該当する。 - 大判大3.4.21
賭博において賭けた財物は、賭博罪の組成物件に該当する。 - 大判昭7.7.20
印章を偽造し、これを使用して文書を偽造したときは、印章偽造罪は文書偽造罪に吸収されるので、偽造印は印章偽造罪の生成物件として刑法19条1項3号によってではなく、文書偽造罪の供用物件として刑法19条1項2号により没収される。 - 最大判昭23.7.14
主文において何人から没収するかを明示していなくても、判文上、何人に対して没収を付加したのかが分かる場合には、理由不備の違法はない。 - 最判昭23.11.18 昭和23年(れ)第545号:窃盗教唆、賍物故買 刑集2巻12号1597頁
盗品等を有償で譲り受けた場合における盗品等は取得物件(刑法19条1項3号)に該当し、盗品等を売却して得た金銭は対価物件(同法19条1項4号)に該当する。 - 最判昭24.5.28 昭和24年(れ)第562号:強盗殺人、強盗傷人、強盗、住居侵入 刑集3巻6号873頁
犯人以外の者が所有していた物であっても、所有者が返還請求権を放棄した場合には、その物は、犯人以外の者に属しない物とはならず、没収することができる。 - 最判昭24.12.6 昭和24年(れ)第1967号: 贈賄幇助、贈賄 刑集3巻12号1884頁
供与の申込みをしたが収受されなかった賄賂は、「収受した賄賂」(刑法197条の4(現・197条の5))には当たらないことから、刑法197条の4によって没収することはできないが、刑法197条の4は刑法19条を排斥するものではないから、賄賂申込罪(刑法198条)の組成物件として、刑法19条1項1号により没収することができる。 - 最判昭31.12.28 昭和29年(あ)第2657号:たばこ専売法違反 刑集10巻12号1812頁
追徴額は、現実の取引違反の価額ではなく、その物件の客観的に適正と認められる価額よる。 - 最大判昭32.11.27 昭和26年(あ)第1897号:関税法違反 刑集11巻12号3132頁
旧関税法83条第1項(昭和23年法律第107号により改正された明治32年法律第61号)は、犯人以外の第三者たる同条所定の貨物又は船舶の所有者が、貨物について同条所定の犯罪行為が行われること又は船舶が同条所定の犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知っており、その犯罪が行われた時から引き続きその貨物又は船舶を所有していた場合に、その貨物又は船舶を没収できるとする趣旨であり、同条所定の貨物又は船舶が犯人の占有に係るものであれば、所有者の善意・悪意に関係なく没収すべき旨を定めたものではない。 - 最判昭34.8.28 昭和31年(あ)第4042号:関税法違反、同幇助 刑集13巻10号2806頁
旧関税法(昭和23年法律第107号により改正された明治32年第61号)83条にいう「犯人」には、両罰則定の適用を受けるべき「法人」又は「人」をも含む。 - 最大決昭38.5.22 昭和34年(あ)第126号:関税法違反、物品税法違反、贈賄、公正証書原本不実記載、同行使 刑集17巻4号457頁
関税法118条は、同条所定の犯罪行為の犯人に対して没収又は追徴を科すること規定しているが、同条にいう「犯人」には、行為者のみならず、両罰規定によって処罰される法人又は人も含まれる。 - 最大判昭39.7.1 昭和37年(あ)第1243号:関税法違反 刑集18巻6号290頁
旧関税法(昭和29年法律第61号による改正前のもの)83条3項にいう犯人とは、犯罪貨物の所有者又は占有者であった者に限らず、当該犯罪に関与した全ての犯人を含み、犯罪貨物の没収ができないときは、犯罪貨物の所有者又は占有者でなかった者に対しても、その価格に相当する金額を追徴することができる。 - 最決昭40.5.20 昭和39年(あ)第2484号:売春防止法違反 集刑155号771頁
売春防止法13条2項によって懲役刑に併科すると定められた罰金刑は、刑罰であって没収又は追徴とはその性質を異にするから、被告人に罰金刑が併科された場合においても、罰金刑が併科された行為により取得した家賃相当額を報酬物件として刑法19条1項3号、19条の2によって追徴することができ、かつ、その際いわゆる適正賃料額を控除することを要しない。 - 最大判昭43.9.25 昭和41年(あ)第1257号:収賄、加重収賄、有印虚偽公文書作成、同行使 刑集22巻9号871頁
追徴額の算定基準は、没収対象であった物の授受・取得後に価額が増減したとしても、それは物の授受・取得とは別個の原因に基づいて生じたものなので、物の授受・取得当時の価額となる。 - 名古屋高金沢支判昭45.11.17 昭和45年(う)第97号:賭博開帳図利被告事件 高刑集23巻4号776頁
賭客に対する貸付準備金は、賭客の賭博行為を誘い、賭博の開張行為の継続を図るため、重要な役割を果たし、賭博開張の用に供されようとするものであるとみることができるので、犯罪供用物件に当たる。 - 最決平30.6.26 平成29年(あ)第530号:強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件 刑集72巻2号209頁
被害者に犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、被害者が捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとするために、強姦及び強制わいせつの犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影し、デジタルビデオカセットに録画した場合、当該デジタルビデオカセットは、供用物件(刑法19条1項2号)に当たる。
各 論
個人的法益に対する罪
生命及び身体に対する罪
身体に対する罪
暴行罪
- 東京高判昭25.6.10 昭和24年(を)新第2684号:傷害被告事件 高刑集3巻2号222頁
「暴行」(刑法208条)とは、人に向かって不法な物理的勢力を発揮することをいい、その物理的力が人の身体に接触することは必要ではない。 - 最判昭28.11.27 昭和27年(あ)第5833号:逮捕、監禁、暴行、脅迫、食糧管理法違反、傷害、銃砲等所持禁止令違反 刑集7巻11号2344頁
暴行・脅迫が不法監禁中になされたものであっても、不法監禁の状態を維持存続させるため、その手段としてなされたものでなく、全く別個の動機・原因からなされたものであるときは、監禁罪(刑法220条)に吸収されず、別罪を構成する。 - 最判昭29.8.20 昭和27年(あ)第6714号:暴力行為等処罰に関する法律違反 刑集8巻8号1277頁
「暴行」(刑法208条)とは、人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいい、加害者が、室内において相手方の身辺で大太鼓、鉦等を連打して意識もうろうにさせ、又は脳貧血を起こさせた場合も包含される。 - 最判昭30.11.1 昭和28年(あ)第5372号:傷害、暴行、脅迫 集刑110号79頁
犯人が他人に対し暴行を加えた後、更に別個の害悪を告知し脅迫行為をした場合、それが暴行行為の直後に同一の場所でなされたものであっても、暴行罪(刑法208条)に吸収されず、別に脅迫罪(刑法222条)が成立し、併合罪(刑法45条前段)となる。 - 最決昭39.1.28 昭和36年(あ)第2048号:傷害致死 刑集18巻1号18頁
狭い四畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回す行為は、同人に対する暴行に当たる。
傷害罪
- 東京高判昭25.6.10 昭和24年(を)新第2684号:傷害被告事件 高刑集3巻2号222頁
傷害罪(刑法204条)は、傷害の結果発生の認識がなくても、傷害の結果が発生すれば成立する。 - 最決平17.3.29 平成16年(あ)第2145号:傷害被告事件 刑集59巻2号54頁
自宅から隣家の住人に向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日連夜、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、当該住人に精神的ストレスを与え、慢性頭痛症等を生じさせた行為は、傷害罪の実行行為に当たる。
自由に対する罪
脅迫罪
- 最判昭26.7.24 昭和25年(れ)第981号:脅迫 刑集5巻8号1609頁
脅迫罪(刑法222条)における害悪の告知は、被害者に対して直接になす必要はなく、被告人おいて脅迫の意思で害悪を加えることを知らしめる手段を施し、被害者が害悪を被ることを知った事実があれば足りる。 - 最判昭27.7.25 昭和25年(あ)第1992号:公務執行妨害 刑集6巻7号941頁
「お前を恨んでいる者は俺だけじゃない。何人いるか分からない。駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させあなたを殺すと言っている者もある」、「俺の仲間はたくさんいてそいつらも君をやっつけるのだと相当意気込んでいる」などと申し向ける場合申し向ける行為は、脅迫行為に当たる。 - 最判昭28.11.27 昭和27年(あ)第5833号:逮捕、監禁、暴行、脅迫、食糧管理法違反、傷害、銃砲等所持禁止令違反 刑集7巻11号2344頁
暴行・脅迫が不法監禁中になされたものであっても、不法監禁の状態を維持存続させるため、その手段としてなされたものでなく、全く別個の動機・原因からなされたものであるときは、監禁罪(刑法220条)に吸収されず、別罪を構成する。 - 最判昭29.6.8 昭和27(あ)第4864号:暴力行為等処罰ニ関スル法律違反 刑集8巻6号846頁
駐在所付近で、「売国奴の番犬、A巡査をたたき出せ」と題し、「来るべき人民裁判によって明らかに裁かれ処断されるであろう」等と記載したビラを付近の住民等に頒布して、住民を通じて同巡査に入手させた場合、その言説内容と公知の客観的姿勢とが相まって、一の具体的・客観的害悪の告知であるといえ、また、普通一般人の誰もが畏怖するものと認められるので、刑法所定の脅迫に当たる。 - 最判昭30.11.1 昭和28年(あ)第5372号:傷害、暴行、脅迫 集刑110号79頁
犯人が他人に対し暴行を加えた後、更に別個の害悪を告知し脅迫行為をした場合、それが暴行行為の直後に同一の場所でなされたものであっても、暴行罪(刑法208条)に吸収されず、別に脅迫罪(刑法222条)が成立し、併合罪(刑法45条前段)となる。 - 最判昭35.3.18 昭和34年(あ)第1812号:脅迫 刑集14巻4号416頁
2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書を発送しこれを配達させたときは、脅迫罪(刑法222条)が成立する。 - 大阪高判昭61.12.16 昭和61年(う)第381号:暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被告事件 高刑集39巻4号592頁
脅迫罪(刑法222条)の保護法益は意思決定の自由であるから、法人の代表者・代理人等に対して、法人の法益に危害を加える旨を告知しても、法人に対する脅迫罪は成立せず、法人に対する加害の告知が、ひいて現にその告知を受けた自然人自身の生命、身体、自由、名誉又は財産に対する加害の告知に当たると評価され得る場合にのみ、その自然人に対する同罪の成立が肯定される。
逮捕・監禁罪
- 最判昭28.11.27 昭和27年(あ)第5833号:逮捕、監禁、暴行、脅迫、食糧管理法違反、傷害、銃砲等所持禁止令違反 刑集7巻11号2344頁
暴行・脅迫が不法監禁中になされたものであっても、不法監禁の状態を維持存続させるため、その手段としてなされたものでなく、全く別個の動機・原因からなされたものであるときは、監禁罪(刑法220条)に吸収されず、別罪を構成する。
住居侵入罪
- 最決平19.7.2 平成18年(あ)第2664号:建造物侵入、業務妨害被告事件 刑集61巻5号379頁
現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入った場合、その立入りは同所の管理権者の意思に反するものであるから、立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客と異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立する。
人格的法益に対する罪
名誉毀損罪
- 大判大15.3.24 大正14年(れ)第2138号:脅迫被告事件 刑集5巻117頁
名誉毀損罪又は侮辱罪の被害者となる者は特定した人又は人格を有する団体でなければならず、東京市民とか九州人というような漠然とした表示では名誉毀損罪又は侮辱罪は成立しない。 - 大判昭5.6.25
現行法上、犯罪の主体となるのは自然人のみであって、原則として法人には犯罪能力がなく、特に法人を処罰する規定がない限り法人は処罰されないので、法人の代表者が法人の名義を用いて他人の名誉を毀損した場合においては、法人を処罰する規定がない以上、自然人であるその行為の行為者を処罰すべきである。 - 最判昭28.12.15 昭和27年(あ)第3760号:名誉毀損 刑集7巻12号2436頁
相手方の氏名を明示しなくても、誰に対するものなのかが容易に分かる場合には、名誉毀損罪(刑法230条1項)の被害者の特定に欠けるところはない。 - 最判昭33.4.10 昭和31年(あ)第3359号:名誉毀損 刑集12巻5号830頁
言論の自由(憲法21条1項)の保障は絶対無制約ではなく、人の名誉を毀損する記事を新聞紙に掲載し、これを頒布して他人の名誉を毀損することは、言論の自由の濫用として、憲法の保障する言論の自由の範囲内に属するものと認めることができない。 - 最判昭34.5.7 昭和33年(あ)第2698号:名誉毀損 刑集13巻5号641頁
事実を摘示した直接の相手方が特定かつ少数人であっても、その者らを通じて不特定又は多数人に摘示した事実が伝播する可能性がある場合には、公然と事実を摘示したものと認められる。 - 最判昭36.10.13 昭和33年(あ)第2480号:名誉毀損 刑集15巻9号1586頁
多数人の面前において人の名誉を毀損すべき事実を摘示した場合は、その多数人が特定しているときであっても、名誉毀損罪(刑法230条1項)を構成する。 - 最決昭43.1.18 昭和42年(あ)第361号:名誉毀損、私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使 刑集22巻1号7頁
うわさの形で人の名誉を毀損する行為がなされた場合において、真実性の証明による免責(刑法230条の2)がなされるための証明の対象は、風評の存在自体ではなく、その内容をなす事実の存在である。
真実性の証明による免責
- 東京高判昭28.2.21(インチキブンヤ事件) 昭和27年(う)第2626号:名誉毀損被告事件 高刑集6巻4号367頁
刑法230条の2の真実性の証明について、裁判所が諸般の証拠を取調べ、真相の究明に努力したにもかかわらず、事実の真否が確定されなかったときは、被告人は不利益な判断を受けるという意味において、被告人は事実の証明に関し挙証責任を負うものということができる。 - 最判昭28.12.15 昭和27年(あ)第3760号:名誉毀損 刑集7巻12号2436頁
公務と全く関係のない事実は、公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実(刑法230条の2第3項)に当たらない。 - 最決昭32.4.4 昭和31年(あ)第938号:名誉毀損 集刑118号709頁
原判決は、摘示事実の真実性を確認できる証拠は1つも存在しない旨を判示して、原審における弁護人の控訴趣意を排斥しているのであるから、被告人が摘示事実を真実であると信じていたとしても、そう信じることが健全な常識に照らして相当であるとは認め難く、過失があったものといわざるを得ないという原判示は、必要のない余論であって、この点を攻撃する論旨は、判決に影響のない主張にほかならない。 - 最判昭34.5.7 昭和33年(あ)第2698号:名誉毀損 刑集13巻5号641頁
摘示事実の真実性が証明されなかった場合には、行為者が摘示した事実について真実であると信じていたとしても、名誉毀損罪が成立する。 - 最判昭41.6.23 昭和37年(オ)第815号:名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求 民集20巻5号1118頁
民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性を欠き、不法行為は成立しない。もし、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、故意若しくは過失がなく、不法行為は成立しない。
衆議院議員選挙の立候補者の前科等に係る事実は、公共の利害に関する事実に当たる。 - 最大判昭44.6.25(夕刊和歌山時事事件) 昭和41年(あ)第2472号:名誉毀損 刑集23巻7号975頁
刑法230条の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものであり、両者間の調和と均衡を考慮すると、刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪(刑法230条1項)は成立しない。
真実性の証明の方法は、厳格な証明による。 - 最判昭56.4.16(月刊ペン事件) 昭和55年(あ)第273号:名誉毀損 刑集35巻3号84頁
私人の私生活上の行状であっても、その携わる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たり得る。
「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)に当たるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであって、摘示された事実の公共性の有無の判断を左右するものではない。 - 最決平22.3.15 平成21年(あ)第360号:名誉毀損被告事件 刑集64巻2号1頁
行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らして相当の理由があると認められるときに名誉毀損罪が成立しないことは、インターネットの個人利用者による表現行為の場合であっても、他の表現手段を利用した場合と同様であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
侮辱罪
- 大判大15.3.24
名誉毀損罪又は侮辱罪の被害者となる者は特定した人又は人格を有する団体でなければならず、東京市民とか九州人というような漠然とした表示では名誉毀損罪又は侮辱罪は成立しない。 - 最決昭58.11.1 昭和58年(あ)第960号:侮辱、軽犯罪法違反 刑集37巻9号1341頁
刑法231条(侮辱)にいう「人」には法人も含まれ、侮辱罪は、法人を被害者とする場合においても成立する。
信用及び業務に対する罪
信用毀損罪
- 最判平15.3.11 平成14年(あ)第1198号:信用毀損、業務妨害、窃盗被告事件 刑集57巻3号293頁
信用毀損罪(刑法233条前段)の保護法益である信用は、経済的側面における人の社会的評価をいい、これには、人の支払意思又は能力のほか、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。
偽計業務妨害罪
- 東京高判昭27.7.3 昭和27年(う)第306号:窃盗業務妨害被告事件 高刑集5巻7号1134頁
業務妨害罪によって保護される法益は、事実上平穏に行われている一定の業務なので、その業務が開始される原因となった契約が民法上有効であることや、その業務に関する行政上の許可が存在することは、必ずしもその業務ということの要件ではない。 - 最決平12.2.17 平成9年(あ)第324号:業務妨害被告事件 刑集54巻2号38頁
強制力を行使する権力的公務以外の公務は、偽計・威力業務妨害罪(刑法233後段、234条)の業務に当たる。 - 最決平19.7.2 平成18年(あ)第2664号:建造物侵入、業務妨害被告事件 刑集61巻5号379頁
現金自動預払機利用客を、同人のカードの暗証番号等を盗撮するためのビデオカメラを設置した現金自動預払機に誘導する意図を秘して、その隣にある現金自動預払機を、あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装って適当な操作を繰り返しながら1時間30分間以上にわたって占拠し続けた行為は、偽計業務妨害罪に当たる。
威力業務妨害罪
- 東京高判昭27.7.3 昭和27年(う)第306号:窃盗業務妨害被告事件 高刑集5巻7号1134頁
業務妨害罪によって保護される法益は、事実上平穏に行われている一定の業務なので、その業務が開始される原因となった契約が民法上有効であることや、その業務に関する行政上の許可が存在することは、必ずしもその業務ということの要件ではない。 - 最判昭28.1.30 昭和25年(れ)第1864号:住居侵入、業務妨害 刑集7巻1号128頁
威力業務妨害罪(刑法234条)にいう「威力」とは、犯人の威勢、人数及び四囲の状勢からみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力をいい、「業務を妨害した」とは、具体的な個々の現実に執行している業務の執行を妨害する行為のみならず、被害者の当該業務における地位に鑑み、その遂行すべき業務の経営を阻害するに足りる一切の行為をいう。 - 最判昭32.2.21 昭和31年(あ)第1864号:威力業務妨害 刑集11巻2号877頁
「威力を用いて」(刑法234条)とは、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしも、それが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。 - 最大判昭41.11.30 昭和36年(あ)第823号:威力業務妨害 刑集20巻9号1076頁
事業ないし業務の実態が、権力的作用を伴う職務ではなく、民営の場合と異ならない場合は、国若しくは公共団体又はその職員の行う公務は、威力業務妨害罪(234条)にいう業務に含まれる。 - 最決昭59.3.23 昭和57年(あ)第987号:威力業務妨害 刑集38巻5号2030頁
弁護士からその業務にとって重要な書類が在中するかばんを奪取して隠匿する行為は、刑法234条にいう「威力を用い」た場合に当たる。 - 最決平4.11.27 平成4年(あ)第267号:威力業務妨害 刑集46巻8号623頁
被害者の事務机引き出し内に赤く染めた猫の死がいを入れておくなどして、被害者にこれを発見させ、畏怖させるに足りる状態におく行為は、威力業務妨害罪(刑法234条)の「威力」に当たる。 - 最決平12.2.17 平成9年(あ)第324号:業務妨害被告事件 刑集54巻2号38頁
強制力を行使する権力的公務以外の公務は、偽計・威力業務妨害罪(刑法233後段、234条)の業務に当たる。 - 最決平14.9.30 平成10年(あ)第1491号:威力業務妨害被告事件 刑集56巻7号395頁
東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため、通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後、通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は、強制力を行使する権力的公務ではないから、威力業務妨害罪にいう「業務」に当たり、このことは、自主的に退去しなかった路上生活者が警察官によって排除、連行された後、その意思に反して段ボール小屋を撤去した場合であっても、異ならない。
また、同工事が公共目的に基づくものであるのに対し、路上生活者は通路を不法に占拠していた者であり、行政代執行の手続を採ってもその実効性が期し難かったことなど判示の事実関係の下では、威力業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵を有しない。 - 最判平23.7.7 平成20年(あ)第1132号:威力業務妨害被告事件 刑集65巻5号619頁
卒業式の開式直前に、式典会場である体育館において、主催者に無断で、保護者らに対して、国歌斉唱のときには着席してほしいなどと大声で呼び掛けを行い、これを制止した教頭らに対して怒号するなどし、その場を喧噪状態に陥れるなどして、卒業式の円滑な遂行に支障を生じさせた行為をもって、威力業務妨害罪(刑法234条)に問うことは、憲法21条1項に違反しない。
電子計算機損壊等業務妨害罪
- 東京高判昭27.7.3 昭和27年(う)第306号:窃盗業務妨害被告事件 高刑集5巻7号1134頁
業務妨害罪によって保護される法益は、事実上平穏に行われている一定の業務なので、その業務が開始される原因となった契約が民法上有効であることや、その業務に関する行政上の許可が存在することは、必ずしもその業務ということの要件ではない。
国家的法益に対する罪
国家の作用に対する罪
公務執行妨害罪
- 最判昭53.6.29(長田電報局事件) 昭和51年(あ)第310号:公務執行妨害 刑集32巻4号816頁
① 公務執行妨害罪にいう職務には、広く公務員が取り扱う各種各様の事務の全てが含まれる。
② 職務の性質によっては、その内容・職務執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始・終了を論ずることが不自然かつ不可能であって、ある程度継続した一連の職務として把握することが相当と考えられるものがあり、そのような職務の各執行が事実上一時的に中断したとしても、その状態が被告人の不法な目的を持った行動によって作出されたものである場合には、職務の執行は終了したものということはできない。
③ 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識があるというためには、行為者において公務員が職務行為の執行に当たっていることの認識があれば足り、具体的にいかなる内容の職務の執行中であるかまで認識することを要しない。